「得する生活」 橘玲著


得する生活―お金持ちになる人の考え方得する生活―お金持ちになる人の考え方
(2003/12/01)
橘 玲

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評価★★★★
得する生活 橘玲著 幻冬舎

 金融界隈ではちょっと有名な橘玲の実用書。知ってちょっと得する生活の知恵なんてレベルじゃない、知ってないと逆に損をするくらいに有用な本。特にクレジットカードと、旅行、不動産取得に関してはね、

①クレジットカードのからくり
 まず、ある商品やサービスの現在価値とは、将来の価値からリスクと機械費用を割引いたものである。将来価値とは、現在価値にリスクと機械費用を加えたものである、というのが前提となる。本来は現在価値より(通常は銀行利息分だけ)将来価値の方が高くなるため、クレジットカードは1回もしくは2回払いであれば得になるわけだ(割賦販売法では3回以上が割賦扱い)。更に、ボーナス払いをうまく利用すると、一年間無利子で金を借りることも可能だ。クレカを使う以上は、支払い猶予期間をできるだけ延ばすのが経済合理的である。ただし、クレカは他人にプライバシー情報を提供することになる(現金取引なら匿名で取引できる)。

 同じように、花屋で顧客がカードで1万円払うと、2ヶ月後にクレカ会社から5%の手数料を引かれ、花屋には9500円支払われる。現金でもらっていれば、銀行に預けて2ヶ月後には1万円が1万50円になる。つまり、カードで払われると550円値引きしたことと同じである。だから普通の販売店は手数料や利息分を通常価格に上乗せしている。つまり、現金払いの客はクレカ客の分を余計に払って損していることになる。
 花屋にとって、その場で日銭が入る現金取引の方がいい。そこで、現金払い客を増やすには、クレカの手数料が5%なら現金払いの客だけに5%のポイント還元カードのスタンプを押させるといい。1000円ごとに1個スタンプで、10個たまると500円割引。ポイントをためるに店に来る頻度が増えるし、加えて全員がポイントを遣うわけではない(店側の還元率は5%以下になる)。

 どのクレカにもポイント還元のサービスがついている。経営の苦しいクレカ会社のポイント還元率は0.4−0.45%。実質還元率1.4%(100万円遣って1.4万円戻ってくる)のクレカもある。楽天カードの還元率は1%+各種キャンペーン。ただし、遣われないポイントはすべてクレカ会社の利益になる。年会費1300円・還元率1%のカードは、年間26万円以上遣うなら年会費無料・還元率0.5%のカードよりも得する(楽天カードなら月4万円以上遣うならプレミアムカードの方が得だ)。オンリーワンのクレカは年会費無料でないやつを選ぶべき(還元率を計算の上)。

手数料の平均は3%。百貨店で1−2%、一般販売店で5%、水商売で7−10%。広告宣伝費が1%とするとクレカの粗利は2%にしかならず、儲からない。結果、リボ払いやキャッシングに力を入れている。

 ポイント還元のほか、クレカの多くには各種優待サービスがついている。VISAジャパン「プライムクラブ」のレストラン優待サービス(CCCが運営代行)を年会費無料でも可能にしているクレカもある。アメックスやダイナースなど年会費を支払うクレカに多い「ダイニング・アラカード」なら加盟店での飲食費が20%キャッシュで指定口座へバックされる(最大6万円まで)。サラリーマンが接待費に活用すれば小遣い稼ぎになる。ポイント還元率は低いため、接待や外食の多いサラリーマンにはかなり得なカードである。

 また、クレカで重要なのが、多くに付帯する海外旅行保険。ただ、その多くは傷害保険で疾病は対象としていない(楽天カードは疾病も200万円まで対象)。患者はその場で自分で治療費を支払い、領収書と診療明細を受け取って帰国後にクレカ会社に請求する。治療時に十分なキャッシュがなければ、アメリカのような高額な医療費国家では医師は治療を断る。しかも、それら保険は、旅行費用をクレカで支払った場合のみ適用される。旅行中の飲食費やレンタカー料金は対象外。この条件しらないと支払いを拒否される。ならば、東京―成田のリムジンや成田エクスプレス料金をクレカで払えば良い。
 クレカの付帯保険で心もとないが、別途保険に入る際も注意が必要だ。損保は生保と違い、支払いの際に必ず示談や査定をする。車なら新車ではなく中古の時価で査定する。会社は必ず支払額を抑えようとし、顧客とのトラブルに慣れている。海外旅行保険に入るなら中堅以下の業績の悪い損保会社の保険加入は辞めた方がいい。旅行会社に薦められる保険ではなく自分でネットで探した方がいい。


②金券のからくり

 デパートの「友の会」商品券は、月1万円年12回積み立てると13万円ぶんもらえる。年利換算すると17%強となり、商品券で買い物してそのポイントで商品券を買えば複利で26%になったりするほど(デパート利用者には)得となる。最初は金券ショップで買えば更に得になる。また、金券ショップは注意して覗くといい。すし券、シューズ券、図書券、ビール券、おもちゃ券、様々ある。JRや地下鉄ならプリベイドカードで払い、海外旅行は旅行券で払えば良い。電話料金はテレフォンカードで支払えば、電話代を1割引きにできる。

 ちなみに、金券ショップに商品券が並ぶのは贈答用で貰った人が換金しているほか、交際費の損金計上が可能な中小企業(資本金1億円以下)や自営業者が裏金づくりしているケースも多い。得意先への贈答用に購入したことにして実際には贈らず、金券ショップで換金する。法人税払うより手数料払う方が得になる。もちろん税務署も、交際費が多い会社には目を付けているものだ。一方、損金算入できない大手企業は、出張名目の新幹線回数券、ハイウェイカード、切手などで裏金に換えるものだ。
 

マイレージのからくり

 航空会社にとり、空気を運んでも人をのせても、コストは一緒。ならば得意客に優待を与えて自社のファンをつくった方がいい。大胆にサービスを与えても採算がとれ、顧客にもメリットが大きいため、結果マイレージプログラムが普及した。ホテルの優待サービスなどよりずっと得である。ただし、日系航空会社のマイレージは有効期間が3年。海外は実質無制限が多く、マイル交換できるエリアも海外系の方が広い。しかも、日系で格安航空券つかうとマイル加算率がすごく低い(これほんと)。だから海外のマイレージカードで(スターアライアンスワンワールドの両方に)登録した方がいい。
 東京ーニューヨーク間往復(6万マイル)より、東京―バンコク間往復(2万マイル)の方が航空券が割高だ。ならばマイルを貯めるのは遠く(アメリカ)で、遣うのは近く(アジア)が正解となる。全米周遊の格安航空券を買い、できるだけ飛行距離の長いルートを選んで、一回の旅行でできるだけ飛行距離を延ばす。そうすれば、マイルは安くたまる。 アジア旅行で遣う際は、バンコク発の格安航空券だと更に20%ほど割安だから現地から買うのがいい。ただし、格安航空券でためたマイルを遣うと、キャンセル待ち扱いにされやすい。格安航空券のマイレージ客は空気よりまし、な扱いだからだ。

 マイル提携されたクレカも結構お得だ。通常、100円で1マイル(40万円で4万マイル)獲得できる(200円で1マイルのクレカもあるが)。1マイル3円ならば、ポイント還元率は3%と一緒で、100円で1.5マイル獲得できるクレカならポイント還元率は4.5%相当になる。会社で宴会があったら真っ先に幹事になろう。それをマイレージクレカで支払えばいい。10万円なら1万マイルたまる。そうやって毎年、アジアにただで海外旅行している人もいる。

④借金を学ぶ

 大手町の全国銀行協会のビル。あるいは各都道府県の同支部。そこには「個人信用情報センター」のブースがあり、自分の与信情報をただで閲覧できる。必要なのは運転免許証などの身分証明書のみ。借金なら住宅ローンもカードローンも過去5年の履歴がすべて記録されている。つまり、5年間は履歴が消えず、個人の信用に影響を与えていることになる。ときに若い夫婦が泣き合っている姿を見かけるが、それは住宅ローンを申し込んで断られた夫婦が確かめに来て現実を知った姿である。しかも、その多くは夫が過去にクレカの返済を引き延ばし、裁判に訴えられると脅されたあたりで親に泣きついて支払ったくらいの軽いことで、罪の意識もなく忘れているケースが多い。
 全銀協のほかにも、クレジット会社加盟のCIC、CCBと、消費者金融の全情連情報センターがあり、手数料500円で閲覧できる。なぜ個人情報を閲覧できるかといえば、債権は所有権に比べて遥かに弱い権利で、支払い義務を履行しない人が多いからだ。借金を返さないとしても、債権債務は民事上の問題のために債務者を刑務所に放り込むことができない。高利貸しだって、金を返さない人に言えるのは道徳だ。「約束は人間として当たり前だろ」ぐらいなのだ。ネットでも「個人信用調査」「クレジットカード発行調査」などでキーワード検索すれば、1件1万円で調査を売る業者が見つけられる。調査の際には、氏名・生年月日・住所・電話番号の4つがあればいい。メールで申請すれば1週間程度で情報がメールで送られてくる。情報化社会ではプライバシーなどはどこにもなく、途方もない数の人が知っていて、横流ししている。

 実は多重債務者の方が有利なのだ。債権回収者に対して「金がない」と言えば回収者はすごすご帰っていく。多重債務者の客が増えて、クレカで商品券は買えなくなった。JR回数券や切符もクレカで買うと「C制」のマークがつき、換金できない。貸金の時効は5年でしかない。ただし、訴訟後の判決の効力は10年だから、夜逃げは考えない方がよい。ならば自己破産するといい。弁護士に15−20万円の着手金を払えば、ものの5分ですむ。自宅は失うが、借金はチャラになる。自営業者なら自宅を失わない個人版民事再生法という手がある。
 弁護士も儲からない。開業するには霞ヶ関にある地裁にタクシーで10分以内にいける地区に事務所構えないと、呼びだされたときに困る。銀座は無理でも、新橋赤坂神田くらいとなる。電話番の給与と家賃で月100万円は経費で飛ぶ。企業顧問料は月5万円が主流だが、最近では2万円の事務所もある。成功報酬15万円なんて夢の話。結局、儲かっているやつの物まねしかなく、実は、多重債務者の借金整理くらいになる。

 一方、高利貸しにとって、相手が多重債務者ばかりになって儲からなくなる。これを経済学では逆選択という。例えば、喫煙者が加入できる医療保険は保険料が高くなるので健康な非喫煙者の加入がなくなり、保険会社の医療費負担が大きくなるので保険料は更に高くなる。保険が高くなるとライトスモーカーもいなくなり、ヘビースモーカーだけになって保険料は更に高くなって、最後に保険会社は赤字になる。個人年金も、喫煙者は受け取りが少なくなると思って保険からいなくなり、非喫煙者の中でも健康に自信のない人がいなくなり、最後には健康で長生きする人が増えて立ち行かなくなる。これらを解消するには、国民皆保険のように全員強制加入させるしかない(でも、医療費を減らすべく国民を健康にすれば年金支払額が増えるわけだ)。
  
 とにかく個人としての借金は避けた方がいい。中古車や英会話教室エステサロンなどでクレジット払いするときは要注意だ。それらは自社扱いの高利のクレジットと契約しており(キックバックさせるため)、強引にクレジット契約させるものだ。

⑤リゾートマンションのからくり

 格安のリゾートマンションって多く、買えば所有権は自分のものだが、一方で購入したら最後、第3者に売れるまで管理費・修繕費・固定資産税を払い続けなくてはならない。マンションの耐用年数は40年。30年もすれば建物価値はなくなる。転売が不可能になったマンションってものすごく多い。じゃ、更地にして売却するかと言っても、多額の解体費用がかかる。不良資産は死ぬまで所有者に責任が生じる。しかも本人が死んでも相続人に引き継がれる。いやなら優良資産を含めて放棄するしかない。要するにババ抜きゲームなのだ。みんな誰かに引かせたい。
 リゾートマンションを誰かに貸したとしても、管理費さえ支払わないこともままある。ここでも債権債務は民事だから、高額の弁護士・裁判費用が必要になり、結局泣き寝入りが多くなる。従って、オーナーはただでも売りたくなる。そんなマンションでも値段がついているのは、無料だと不動産業者が仲介手数料(上限5%)をとれないからだ。業者も分かっている。売れなくてもいい、ただ放っておくだけだ。
 
 ただし、バブル崩壊後、優良なマンション案件も多くなっている。個人としてリゾートマンションを買う場合、キャッシュで買えるリゾートマンションは2000万円が限度であり、これを超えたマンションほど急に買い手が少なくなる。結果、市場経済の原理に従い、割安感が強くなる。

 リゾートマンションに限らず、不動産を中古で買う場合、競売物件はやめた方がいい。競売物件の市場は効率化し、プロでも超過利潤を得られなくなっている。たまに入札者が一人なんてこともあるが、それは必ず失敗した個人の素人である。個人は競売物件に手を出すよりも、通常の不動産取引を通して業者に値引きさせた方がずっと得する時代なのだ。

 また、リゾートクラブは割安だ。クラブには預託金制と共有制がある。預託金制はクラブが破綻すれば預託金は返ってこないし、クラブが勝手に客を集めて会員権の価値がいつの間にか下がっていることも多い。クラブの会員権価格はバブル時と比較して大幅に下がっている。預託金制クラブの会員権価格は、理屈では、預託金から名義書き換え料を引いた額が会員権相場の下限。これより安いなら預託金を返却してもらったときに利益が生じる。ただし、そういうクラブは経営が悪化している。共有制クラブの最低価格は、不動産の時価評価額を会員数で割れば良い。それと年会費を足して、使用頻度を計算すればいい。