経済書 「デフレの正体」 藻谷浩介


デフレの正体  経済は「人口の波」で動く (角川oneテーマ21)デフレの正体 経済は「人口の波」で動く (角川oneテーマ21)
(2010/06/10)
藻谷 浩介

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評価★★★★



小飼弾が「今年上半期一番の新書」と絶賛していたこともあり読んだ。
日本経済はいつになれば回復するのか、誰もがその処方箋を口にする。でも07年まで、いざなぎ越えという戦後最長の好景気が続いたのに何故みな豊かにならなかったのか? ではあとどんだけ続いたら皆に恩恵が波及したのか? 好景気のさなか、地方なんてまったくと言ってもいいほど(自由経済上では)開発されなかった、好景気だった愛知県でもそうだけど、それはなぜなのか? とはいえ、07年以後も日本の輸出額はバブル時の倍の80兆円で、今も額面上では国際競争力は落ちていないのになぜ豊かじゃないのか?

 こうした疑問ってみんな持っているだろうし、それについての答えもなんども見聞きしてきたはずだが、いまいち腑に落ちない。しかも不景気といってもマックやユニクロ任天堂は史上最高の収益を上げており、総合指標や平均値が通用しない時代だから余計に分からない。

  著者はその理由が15歳から64歳の、いわゆる生産年齢人口の減少にあるという。96−97年頃、スーパーなど小売業も出版もビール類も水道使用量もその生産や販売量を落とし始め、日本の多くの内需産業が下降線をたどりはじめた。青森県では2005−2010年の5年間に生産年齢人口は毎年約1万人減り続け、同県経済は軌を一にして縮小を続けた。首都圏では同5年間に全年齢人口は106万人も増えたが、増えたのは高齢者だけで、生産年齢人口は7万人(多く見積もると22万人)減っている。しかも、96年以降も小売店は出店を続けたから、人件費や店舗維持費など間接コストは増えて逆に一人当たり給料は減って消費額も減った。人口減による経済規模の縮小は地方も都会も同じで、俗に言う地域間格差は実はないのだが、地方の方がスピードが速かったという。

 そもそも日本経済の発展は景気循環によるものなのか。著者によれば、それも単なる生産人口増加によるものだとする。60年代の高度成長は団塊の世代を軸に学生から社会人になった人が増えて消費力が急増したためで、80年代は団塊ジュニアが15歳を超えてその親たる団塊世代がこぞって住宅を購入、最終的にはそれが空前絶後のバブル景気をもたらしたというのだ。

 その後、人口が減り市場が縮小し始め、どの産業も付加価値(生産性)が低下し始めた。生産効率が低下したので、日本は生産性向上に努めたが、日本での生産性向上は工場での人減らしと信じ込まれている。車や電気製品、住宅など日本経済の中心的プレーヤーは、車も電気製品も住宅も消費者一人あたりの購買量が限られているにもかかわらず生産設備は維持して生産能力を維持したまま、ただマージンを削り、そして人(もしくは正社員)を減らして人件費の圧縮に頑張った。生産力は確保されているから過当競争が深まり、製品が売れ残ったら安値処分したため付加価値も目減りした。
マクロ経済学では「生産性が落ちても、いずれダメな業界や企業は淘汰されるから再び生産性は上昇する」と教えてくれるが、日本では企業は人件費や間接コスト、そして付加価値さえ削りながら必死で生き残ろうとする。資本の出し手も期待収益の低下を甘受し付き合い続ける。現代の株主資本主義では、短期に利益をアップするには人件費の抑制に傾きがちだから、なおさ給料は上がらない。結果、GDPは伸びない。儲けた株主が消費すればGDPは落ちないが、日本の株主は高齢者ばかりで車一台買わない。しかも、高齢者は、そのほとんどが大量の貯蓄を残して死ぬ。健康で何歳まで生きるか不確実だから、死ぬ瞬間まで貯金を崩さない。結果、相続人の平均年齢は67歳、もう本格的な年金生活者だ。あるいはマクロ経済学では、貯蓄は投資の源泉と教えてくれる。でも、なぜか日本では海外投資は進んでも国内投資が進まない。そう、誰も人口の減る日本に魅力を感じないのだ。みんな無意識で自覚している。

また、ある連中は日銀が金融緩和しろと言うが、緩和しても過去まったくインフレにはならなかった。要は人口下落→供給過剰による価格下落→経済の縮小なのだ。金融緩和は機能しない。さて今後も生産年齢人口は減る。今後5年間で448万人も減る。内需縮小はえんえんと続く。ならばどうすべきか?

一、 移民政策  2010年に生産年齢人口が300万人減ったが、その分を埋められる移民を持つ国などどこにもない。中国はもうすぐ高齢化するし、インドも近い将来高齢化を迎える。1億3千万近くいる日本の人口減を補える国などない。よしんば、移民が来てくれても、彼らの教育や住居、医療・福祉から年金などのコストを公共部門が負担できる状況にない。実際、外国人労働者の多い自治体では大量の未就学児童を抱える。

二、 生産性の向上   人口が今後3割減るなら、個人所得を1.4倍にすればいい。

三、 エコ分野の育成   エコカーなどエコ分野で世界をリードしろ、という意見は多いが、00−07年に輸出額が7割増えても小売販売額は増えなかった事実を踏まえて欲しい。エコ開発はいいが、かせいだ外貨で内需が回る仕組みこそ再構築すべきである。

四、 老人に売る  老人は買わないし、しかも選り好み激しいので多品種小ロット化が進む。老人に買わせるための「言い訳」を明確に用意し、同時に多品種小ロット化によるコスト増を消費者に転嫁可能な水準以下に抑えるべき。

五、 生前贈与の推進

六、 男性よりもモノを買う女性の就労・雇用推進。 女性が働くと子供を生まなくなると言う人がいるが、女性就労率の高い県ほど出生率が高かったりする

七、 観光業の推進

ところで、本書のタイトルは「デフレの正体」とあるが、内容はデフレじゃなくて「不況の正体」である。で、人口の伸び悩みがGDPに関係するのは当たり前なので、本書に反発する人が多いことも分かる。でも失われた10年が20年になり、これがまだ続きそうなことは事実であろう。