小説「ホテル・ニューハンプシャー」 ジョン・アーヴィング (2006.2.28)
ホテル・ニューハンプシャー〈上〉 (1989/10) 中野 圭二ジョン アーヴィング 商品詳細を見る |
評価★★★★★
言わずとしれたアーヴィングの代表作。彼の作品は長編ばかりのためか、オレがアメリカ文学が苦手なためか、デビュー作「熊を放つ」を除いて読まずにきたが、読んでビックリ。こんな面白い本をなぜ今まで読まなかったんだろう。
ホテルを経営する一家に訪れる様々な出来事を次男が話し手となって語っていく家族模様。起こる出来事一つ一つが深い傷を与えるものだけに、その不幸さに悲しくなる。でも、家族それぞれが、めげずに生を営もうするから、愛おしい。どこまでも誠実で素直だから、決して悲しみだけで終わらない。特に、自分の夢(=自らつくったおとぎ話)を追っていく父は微笑ましく、自分に起きた途轍もない事件から決して目を逸らさず、自分なりに冷静に消化させ、逞しくも乗り越えようとする長女は、とても美しい。
でもね、誤解を恐れずに言えば、この物語において、不幸とか、傷とか、あるいは、それを乗り越える様なんてどうでもいいんだよ。そんな言葉でひとくくりにできる単純なものではない。もっと言えば、テーマは何かなんてことも考えない方がいいw。ただの「おとぎ話」だ。ディケンズの作品のような、スラッと淡々と描かれているけど味わいのある物語、ゆえに、コミカルで絶えず笑えるのだ。
もっと説明したいが、それは他の人達が書いたレビューにもいいものがあるので、それらに譲ることにする。
※補足 オレが気に入った文を一つだけ紹介しよう。単に、オレ自身が酒呑みだから気に入ったんだろうけどw。
「(オーストリアで最高級のバーである)ザッハー・バーにいたものは一人残らず、ぼくが泣き、父さんが慰めるのを見守っていた。それがまさしく、ぼくの考えでは、そこが世界で最も美しいバーであることの理由の一つだ。誰に対しても、どのような不幸でも、そのことで引け目を感じさせない雅量がそこにはある」。