サイエンス書 「脳を鍛えるには運動しかない」 ジョン・レイティ著


脳を鍛えるには運動しかない!―最新科学でわかった脳細胞の増やし方脳を鍛えるには運動しかない!―最新科学でわかった脳細胞の増やし方
(2009/03)
ジョン J. レイティエリック ヘイガーマン

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評価★★★★


 ハーバード大学医学部のジョン J. レイティ准教授が書いた、タイトルそのままに運動すれば脳が鍛えられるっていうサイエンス書。「Born to Run」のNHK出版がツイッターで絶賛していたので読んでみたんだけど、分かりきったことでもあるので、目からうろこって訳にはいかなかった。でも、やっぱりそうだような〜ってことを改めて感じれるし、読んでいて面白く、同時にためになる本。読めば運動したくなるはずだ。さすがはアメリカ、実用的なサイエンス書にはめっぽう強い。
 
 脳のシナプス神経細胞)は長らく再生(=分裂)しないとされてきた。しかも40歳を超えると減少が進みはじめ、70歳を超えると更に加速する。でも、21世紀のいま、それは間違いだと分かった。有酸素運動によってシナプスは新生するのだ。運動によって、まず脳内にドーパミンノルアドレナリンセロトニンなどたくさんの物質が分泌されて気持ちがよくなり、頭もすっきりし、注意力が高まり、やる気が出てくる。新しい情報を記録すべくニューロンうしの結びつきを促進し、結果、海馬の幹細胞から新しいニューロンが成長するのを促すというのだ。
 
 そこで、著者はいかに運動がすぐれているかを個々の目的に照らして説明する。まず、運動は既述のとおり、集中力を増す。ニューロンの新生も促すから、新しい記憶も可能となって成績アップにむすびつく。また、強いストレスは脳内にコルチゾンの分泌を増やしてマイナスの記憶をうながし、結果、体をまもるために新しい情報を遮断し、結果的に海馬の縮小をうながしてしまうが、運動すればストレスが解消される。もちろん、少々のストレスは免疫化をうながすから必要だ。ブロッコリーなど抗酸化物質を含む野菜は、抗酸化物質を含むからいいのではなく、虫と戦うために自家生成した毒素が人間の体に免疫をつくらせ、結果的に抗酸化作用をもたらすからいいように、ストレスがまったくなければ体は逆に弱くなる。だから、ストレスを感じたら運動すればいい。走ったらストレスがなくなったと感じたら、それは本当にストレスがなくなったのだ。

 過度のストレスの結果である、うつにも運動はいい。うつ病患者は、脳がリスクを避けるべくなるべく動かないようにしようとする状態であり、新しい情報もカットする。結果、うつ病感謝の海馬は縮小していくことになり、記憶力も集中力も衰えてしまう。でも、運動すればドーパミンセロトニン、エンドルフィンなどの分泌を促す。抗うつ剤は脳の一部を作用させるにすぎないが、運動は抗うつ剤全種を飲んだと同じ作用をほどこす。もちろん、うつがひどくなると運動する気も起きなくなるため、まずは、うつに効果があると証明されているオメガ3脂肪酸DHA,EPAαリノレン酸)のサプリを摂り、体が動くような状態にしてからだという。
 
 多動性注意欠陥(ADHD)にもいい。ただ、同症状をもつ人々は朝起きれない、待ち合わせに遅れがちといった症状をのぞくと有能であるケースが多く、自分で気付いていて運動をすでにしているケースが多いという。でも著者によれば、現在の運動量では足りず、毎日、しかも筋肉運動も取り込むべきだとしている。

 そのほか薬物、セックス、アルコール、ニコチンなどの依存症にもいい。セックスは脳内のドーパミンレベルが通常の1.5―2倍、コカインは3−5倍になるという。ニコチンは逆にリラックス効果がある一方で、脳の集中力も高めてくれる厄介な物質だ。ただ、どの依存症患者であっても、運動すれば脳内ホルモンバランスが安定していく。30分の有酸素運動によってその後50分はニコチンを摂らなくてもよくなるらしい。
 さらには更年期、老化などにいかに運動が有効かを最新の実験から解き明かす。前述したように、まるでほうれん草やブロッコリーなどが抗酸化=抗加齢にいいように、運動も抗酸化=抗加齢の働きをおよぼてくれる。そもそもブロッコリーの抗酸化作用を十分に得るには、普通に食べる量くらいでは無意味である。有酸素運動認知症アルツハイマーになるリスクを減らし(運動を週2回以上続ければ認知症になる確率が半分になる)、無酸素運動は脳のシナプスの新生にとって非常に重要なヒト生成ホルモン(HGH)の分泌をうながす。
 
 最後に、著者がすすめる運動を書いて終わりにしよう。
? ウォーキング(低強度)= 最大心拍数の55〜65% 
? ジョギング(中強度)= 最大心拍数の65〜75%
? ランニング(高強度)= 最大心拍数の75〜90%
この3つを組み合わせること。心拍計をもちいてインターバルトレーニングすること、これがもっともいいと語っている。