「無駄な抵抗はよせはよせ」 日垣隆著


「無駄な抵抗はよせ」はよせ (WAC BUNKO)「無駄な抵抗はよせ」はよせ (WAC BUNKO)
(2009/06/19)
日垣 隆

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評価★★★


  事故で脳を損傷しても、老いて視力が落ちても、心を病んで元気をなくしても、ちょっとした努力で回復することもあるということをテーマに、最新の脳科学、ストレス医学、ダイエットなど各分野の研究者・エキスパート8人へのインタビューをまとめたもの。

  事故で脳を損傷した記者は、家族を路頭に迷わせたくないという強い意志でリハビリに取り組んでいるうちに短期に回復を果たす。事故で頭を打ったときに壊れた脳は戻らないが、その代わりに以前から休んでいた脳がリハビリで動き始めたという。そもそも脳の神経細胞は生後、成長(細胞分裂)しない(クリア細胞など一部の脳細胞は成長する)が、脳の神経細胞のつなぐ回路は歳を重ねても生まれるし、脳は使うほどに鍛えられていく。ひとつ興味をもったのは、断食・絶食によって脳も活性化するということ。腹八分目のストレスが脳を刺激するというのだ。これは断食道場の石原結実も言ってたことで、実践しようと思う。いや、実践するw。

  飛行機のパイロットを続けるには、血糖値が110以下などの厳しい身体検査をクリアし続ける必要がある。特に問題となるのは老化による視力低下で、あるベテラン機長は、読書を20分間したら外をしばらく眺めたりなど工夫し、絶えず焦点を変える努力をしているという。目を上下左右に動かす目の体操も効果があり、機長は1日5分の体操を毎日することで視力の衰えがないとする。視力だけではなく、人間の考え方も年齢とともに頑迷になるもので、こと年長者や幹部には誰もものを言わなくなるため、機長はフライトを終えるたびに「何か気付いたことある?」と聞くという。これは自分も自戒しないとならない。

  眠り、睡眠の研究者は、毎日15−20分の昼寝が脳をすっきりさせる効果があるという。人間とは関係ないが、エラ呼吸の魚は寝てもおぼれない。でも、肺呼吸のイルカは常に動きながら空気を安定的に取り込む必要があるために、寝るときは、なんと片目をつむりながら脳を片方ずつ休めることで寝るのだという。休む場所のない洋上を何百キロも飛ぶ渡り鳥のアホウドリも片目をつむって休むというのだ。一方、人間はしっかり寝ることが必要で、赤ちゃんがいつも寝ているのは脳をつくるためにいっぱい寝るのだという。ちなみに夢遊病者は脳が熟睡状態にあるが、運動系の命令がうまく伝わらないため勝手に動き出すらしい。

  脳を鍛えれば足も速くなると考えている脳機能学者は、イメージトレーニングによって体の動き方を変えることで運動音痴でも少しは足が速くなるという。幼児教育も大切で、絶対音感って7歳までに鍛えないと培えないように、運動神経は2−3歳までに鍛える必要があるという。

  ストレスの研究者は、ユーストレス(よいストレス)ではなくディストレス(悪いストレス)をコントロールすることで楽に生きられるとする。ディストレスは心理的な影響だけではなく、身体的にもNK(ナチュラルキラー)細胞の力を弱め、つまり、ウイルスへの抵抗力を弱くして癌などにもかかりやすくなる。喘息患者ならば喘息の治りが遅くなる。そこでストレス発散のために薦めるのが 泣くこと。笑うこともストレス発散になるが、数時間たつと元に戻ってしまう。それよりもすごく感動する映画で泣いた方がいい。泣くことで脳がコントロール不能になってリセットされる。副交感神経が活発に働いて一晩寝たのと同じくらいのストレス解消効果があるという。週末は映画で号泣した方がいいようだw。

  同じく心療内科の先生は、セロトニン神経は動いたりご飯を食べることで強くなるという。家に引きこもっているとセロトニン神経が弱まる一方で、背中が丸まっている人、目がトロンとしている人はセロトニン神経が弱まっている人だという。食べる力も弱く、すぐしゃがみこむクセがある。セロトニンを強くするには、内容のないものを音読するような、あまり頭で考えずに単純なリズムを繰り返す作業がいいらしく、座禅や読経がいいという。座禅は目をつむると雑念が沸きやすくなるため、達磨が考えた、半目を開けることで雑念が入らないようにする面壁座禅がいいという。呼吸も、吸って吐くのではなく、吐いて吸うこと。息を吐ききることに集中し、できるだけ長く吐くことがいいらしい。

  ダイエットは岡田斗司夫のレコーディングダイエットなので割愛するがw、楽しかった。すべてTBSラジオ番組のインタビューを活字化したものだが、日垣隆は知識量がハンパじゃないので、内容が深くて面白い。番組自体は日垣隆の後任にえのきどいちろうが就いたが、びっくりするほどつまらなくなった。知識がなく事前の準備も悪いのだろう、質問が幼稚で内容が浅薄。やっぱ自然科学でも社会科学でも知識系インタビューは日垣隆がいい。