映画 「灼熱の魂」ドゥニ・ビルヌーブ監督

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評価★★★★★
 
 カナダ人監督ドゥニ・ビルヌーブ監督の映画。レバノン内戦に着想を得たレバノン系カナダ人劇作家ワジティ・ムアワッドの戯曲を映画化したもの。途中までは中東の複雑な民族・宗教問題をテーマとした社会派のノンフィクションのように展開していくが、あくまで親と子の秘密を巡るミステリーで、カナダ映画界の賞を総なめにしている。

 子供にさえ心を開かず謎めいた形で死んでいった母親の遺言に従い、自身の父と兄を探し始める若き双子の姉弟。母親ナワルはもともと中東レバノンの出身で複雑な人生を隠してシングルマザーとしてカナダに移住してきたため、父親と兄の存在すら聞かされておらず、いったいどこで何をしているかも分からない。姉弟は遺言や資料を元に手がかりを探してレバノン、そして母の生家などを赴ねていくが、そこで母がキリスト教徒とイスラム教徒が互いに殺し合う壮絶なレバノン内戦に巻き込まれ、愛する人や家族ら多くの人を失い、自身も受けてきた壮絶な人生を知ることになる。

 レバノンキリスト教徒が中心になって作られた国であり、第一次大戦後はフランスの植民地であり、フランス語を話す人も多い。ただ、第二次大戦後に独立した後は、周辺諸国中東戦争が勃発する中、キリスト教徒とPLO(イスラム教徒)の対立が激化、1975年より内戦化する。本映画はその時代、内戦化の直前にイスラム教徒の男性と恋をしたキリスト教徒ナワルが子供を産むも異教徒との結婚を許さない家族や村の意向で父は殺され、子供とは離ればなれにさせられる。ここからのあらすじはミステリーのネタバレになるので割愛するが、内戦の悲惨さ、痛切さがこれでもかこれでもかとあらわになっていく展開から目が離せなくなる。

 とはいえ、冒頭書いたように本映画は単に民族・宗教問題をテーマにしたものではなく、その時代を歩んできた女性ナワルの一生を追った物語である。もちろん、エンディングはハッピーエンドではない。ただ、苦しいだけのバッドエンドでもない。最後は、席から立ち上がれなくなるほどのインパクトで、いまだに消化しきれず、このエントリも自分ではまったく不十分だと思っている。昨年のナンバーワンであることは間違いない。