映画「恋の罪」 園子温監督作

1028.jpg

評価★★★

 「愛のむきだし」「冷たい熱帯魚」とミニシアター系ながらもヒット作を飛ばし、宮台真司に言わせれば「現代の寺山修司」と絶賛の評価を受けている園子温の最新作。映画関係者の評価も高く、これは観ておかないとならないな、と半ば義務感をもって観た。もちろん初めてである。
 
 東京・渋谷円山町のラブホテル街で一人の優秀なキャリア女性が殺された事件、いわゆる東電OL殺人事件を元ネタに、刑事(水野美紀)、主婦(神楽坂恵)、大学教授(冨樫真)の3人の主人公を交錯させつつ、女性の性的欲望の本質を捉えようとした物語。有名作家のセレブ妻として日々貞淑に暮らす平凡な主婦がバイト気分で始めたモデルの仕事をきっかけにAV女優となってしまう。もともとは、自己承認、アイデンティティ、居場所、そうした何かを求め、スーパーのソーセージ売り、モデルからAV女優、徐々に仕事を変えるたびに自己の心が満たされつつもだんだん深みに堕ちていく。堕ちた深みに淀んでいたのは昼は大学教授として颯爽と働くも夜は欲望を追究するようにセックスに狂う女。主婦にとっては新鮮である彼女は、堕ちた主婦の真の欲求の果てで謳歌する存在として精神的支柱となる。そして、淀みが堆積する、渋谷・円山町で起きた風俗嬢殺人事件を担当することになる刑事。優しい夫と利発そうな娘を持ち一見幸せな家庭を築いているが、自身も不倫をしている。女の極端な触れ方、振幅を見せながら、どんな人間でも堕ちていくものなのだ。

 評判通り、おもしろかった。狂気がたっぷりと横溢し、先の読めないストーリーは見事で、冨樫真を軸とした狂気に満ちた映像にも迫力がある。途中巻き起こる出来事はどれも最後にまとまって見事な伏線となっている。エンターテイメントとしてもよくできている。けど、私にとっては桐野夏生「グロテスク」ほどの迫力はない。なんだかドラマ性よりもエンタメ性の方が強く、「告白」のような軽さを感じてしまう。ってか、監督はけっして卑猥にならないよう女性の目線で撮ったというが、最初の水野美紀の裸は別として、元グラビアアイドルの神楽坂恵の脱ぎっぷりが気になり、ストーリーよりも彼女の裸の方が記憶に残るくらいだった。