「なぜ社員10人でもわかりあえないのか」 日経BP編集部


なぜ、社員10人でもわかり合えないのかなぜ、社員10人でもわかり合えないのか
(2011/04/18)
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評価★★★


  岡田斗司夫ツイッター上の読書会の題材として取上げていた本。埼玉県川口市の鏡メーカー、コミーのマネジメント手法を取上げたビジネス書で、コミーは航空会社の手荷物入れや銀行ATMの広報確認用ミラーとして広く全世界に採用される社員16名、売上高5億円の小さな優良企業。本のタイトルがまさにそのままワテクシの勤める会社の現実にピッタリ、さらに岡田さんがツイッター上で「能力が高い人ほど専門性を身に着けてヌシ化し、その人がいないと仕事が回らなくなるという弊害が起こる」と内容を一部紹介していて、ほんとそうだなと膝を打ち、購入することにした。

  まず、企業組織で大切なのはコミュニケーション。京セラの稲盛和夫はコミュニケーションを図るために「飲みニケーション」を重視したが、それは大企業に限ったことではない。小さい企業だからコミュニケーションがとれるというのは誤解だという。私の会社もそうで、小さい会社はあっと言う間に経営陣に話が筒抜けになるために特に一般社員は本音を話さず、無意識に周囲を伺い、職場の空気に配慮した言葉しか離さない。大企業でも同じだろうけど、それでも大企業の方が規約や業績に基づきマニュアル化された人事評価をしてくれるのではないか。中小企業では規約もマニュアルも無視、すべて朝令暮改の権力者による人治主義だ。それを一般社員は肌で理解しており、話す内容を制限する。社長や上司は何でも目が行き届いていると思いがちだが、その実、部下が自分を評価していないことに気付いていない。結局、中小企業は大企業以上にコミュニケーションの円滑化に努力しないとならないのだろう。

  こと中小企業におけるコミュニケーション不足の弊害で起こることの一つに「ヌシ化」があるという。能力が高くて記憶力がいいスタッフは専門性を身に着けてヌシ化してしまう。専門性が高いから他の人はヌシを頼るようになり、ヌシにしか分からないことがますます増えていく。ヌシにやめてもらったり異動してもらったりすることが難しくなり、人事が制約されて他のスタッフも徐々にヌシ化していく。ヌシ化を防ぐには?誰にでも分かるマニュアルづくり、作業しやすい確認ボード作りなど細かい予防策が必要で、いま誰が何をしているのかが分かるようなホワイトボードのような仕組みもあった方がいい。そしてマニュアルづくりの際には、言葉の定義も明確にした方がよい。コミーでは、「ブランド力は信用×認知度」と定義する。クレームは「客に言われて気付いた問題」、欠陥品は「客に言われてなくても使っているうちに将来問題を起こす可能性のある商品」だ。
  
  最後、具体的な手法として参考になったものを二つ挙げたい。一つは「物語」をつくること。コミーでは万引き問題物語、航空業界参入物語、社名・ロゴ変更物語、日経新聞全面広告物語などの実際に起こったトラブルや苦労話を物語化して本にしている。物語をつくることで、社員が何かに困ったとき、問題解決へのプロセスを追体験できるメリットがあると言う。なるほどその通りだが、効果はそれだけではないだろう。物語化は社員に共感を呼び起こし、感情に訴えて会社への愛着や忠誠心を産むと思うし、社外の顧客に読ませれば、顧客はより親しみを持ってくれ、イメージ向上させてブランド力の向上にも繋がると思うのだ。
 
  もう一つ参考になったのは、「なぜ売れないかを考えるより、なぜ売れたのかを考える」ということ。1000人に声をかけて1人が買った場合、999人が買わない理由よりも1人が買った理由を考える。売れない理由など誰でもすぐに山ほど考え付くものだという。それもそうだ。マイナス点よりプラス点を伸ばせという意味では、「得手に帆を揚げよ」という考えも納得する。「並みの能力しか発揮できない分野より、自分の強みに集中すべし」という意味で、「無能だったり並の能力だったりする分野を一流に仕上げることほど難しいことはない」という。たしかに、日本のサラリーマンが疲れているのは、不得意なことを無理にやらされすぎる、やりすぎることなのだろうな。反省、反省。