映画 「告白」 中島哲也監督

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評価★★★

下妻物語」「嫌われ松子の一生」で有名な中島哲也監督の最新作。Twitter上で話題になっていて、多くの人が面白いと感想述べていたから観に行った。原作は本屋大賞を受賞した湊かなえの同名ミステリー小説。

 内容は、ある中学校の終業式の日、女性教師(松たか子)が担当を受け持つクラスの生徒に向かい、まもなく教師を辞めると告白するシーンからスタートする。普段は担任の教師の話などまともに聞いていない生徒たちだが、その告白には「あのこと」があると察し、話を聴く。「あのこと」とは、女性教師が離婚した夫との間にできた幼いひとり娘がある日、プールで死んでいたことで、教師は警察には事故死と鑑定された娘の死を殺人で、その犯人である男子生徒AとBがクラスにいると断定した上で、しかもそのAとBが誰か、クラスのみんなにも簡単に推測できる形での「復讐の告白」を続けていく。事件の当日、教師は仕事が終わって、学校の保健室に預けていた娘を迎えにいくと、娘はいない。誰もいない学校のプールに死体となって浮かんでいたのだ。警察の鑑定は事故死。でも、娘の性格と行動を知る教師はきっと殺されたに違いないと信じていた。殺したのはクラスの男の子2人。一人は科学者を母に持つ成績優秀な男の子で、自分が発明した電気ショック器のすごさをアピールして世間で注目を浴びるために、だれでもいいから人間を殺したいと思っていた。共犯者の男の子は母の溺愛の下に育てられた、ゲーム好きで卑屈な男の子。担任教師の娘を殺すことにした二人は、女の子をおびき寄せ、電気ショックで気絶させ、プールに投げ込んだのだ。プール近くに落ちていた財布をきっかけに教師は真犯人をつきとめたが、犯人は二人とも12歳、日本の少年法で守られ、人を殺しても殺人罪に問うことができない。そこで、教師は復讐を仕掛ける。二人が飲む、給食の際にでてくるパックの牛乳の中に、HIVウイルスに冒されていた前夫の血液を混ぜる。

 TVCM上がりの監督らしく、洗練されたスタイリッシュな映像が特徴的だ。背景よりも登場人物を際立たせ、ときにスローモーションも活用、ミュージカルのように華やいだ動的なシーンも絡ませながら、映像の妙によってぐんぐん盛り上げていく。それは、まるで最新の音楽PVを観ているかのようだ。ただし、twitter上で一部の意見にみられたような「少年犯罪の問題に踏み込みつつ、人間の道徳とは何かを考えさせられる、ずしりと重い」物語ではけっしてない。哲学性や、あるいは倫理への問いかけといった思想が垣間見られることはなく、単なる秀逸なエンターテイメントである。確かに少年犯罪の問題が背景にはあるが、それはこのエンタメを成立させるための要素でしかない。twitter上ではそのほか、「絡み合った伏線が最後ですべて繋がっていく、完璧なストーリー構成」といった意見もあった。でも、個人的にはその意見にも承伏できない。ミステリーとしても凡庸である。特に気に食わないのは、最後、体育館で行われた式のシーン。それまで本作品は、音楽PV映像のような作り込まれた「様式美」の一方で、現代の中学生はまさにこうなのだろうと納得しうる自然な会話・雑然とした学級風景、ゆがんだ現代の家庭像という「リアルさ」を兼ねそろえることに成功していたはずだ。にもかかわらず、最後のシーンは、クライマックスを意識して作り込み過ぎたせいか、会話も動きも時計の進みも不自然で、俳優らの行動も奇妙であり、どれも「リアルさ」を欠いてしまっていた。最後まで、「映像は美しく、筋書きはリアル」であって欲しかった。殺人事件の「リアルさ」と「映像の様式美」とうまく融合させたエンタメというと、2000年のビョーク主演作「ダンサー・イン・ザ・ダーク」を思い出すが、これと本作品を比べると、稚拙に見えてしまう。もちろん本作品も、観ていて面白いのは間違いない。そのことは、ちゃんと正当に告げておかないとならないね。