ビジネス書 「かばんはハンカチの上におきなさい」 川田修著


かばんはハンカチの上に置きなさい―トップ営業がやっている小さなルールかばんはハンカチの上に置きなさい―トップ営業がやっている小さなルール
(2009/08/28)
川田 修

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評価★★★

 2009年ダイヤモンド社刊行。ワタシが買った本書はすでに10刷と、けっこう売れているみたい。切込隊長が薦めていたので読んでみた。

 本はまったく読まずテレビばかり見ていて面倒くさがり、才知豊かともいえず単なる凡人だという1966年生まれ43歳の著者、前職のリクルートでも現職のプルデンシャル生命でもトップセールスマンに君臨、そんな彼が「56の営業極意」をつづったもの。
 最初の極意は、タイトルにあるように「カバンは持参した白いハンカチの上に置く」というもの。正直、この提案にはビックリした。おそらく大半の読み手が驚くはずだ。著者は驚かれることを分かっていて、そのインパクトこそ、しかもそれが派手なインパクトではなく、誠実さを相手に伝える上でのインパクトこそがいいと言う。といっても、著者は派手を好まない。ワイシャツは白のみ、スーツはグレーか紺色しか着ない。時計は銀縁に白い文字盤で黒の革ベルトのものだけ。こう書くと、なんだか著者は前時代的な価値観を持っていると思われるだろうけど、その通り、彼は前時代的である。とはいえ、今の時代にはそぐわないほどの暑苦しさがあるからこそ、今の時代では差別化されたメリットもある。もしワタシが営業だったら、これらをすべて実践しようとは思わないが(その時点で失格なのだろう)、そうした彼の暑苦しいほどの生真面目さはスゴイと思うほどに徹底していて、逆にスッキリ爽快感すらおぼえる。
 
 やってみようと参考になることもたくさんある。例えば、営業先でもらったコーヒーのスティック砂糖のゴミは持ち帰ることは、いますぐにもできよう。約束した時間に遅れたら、それがたとえ2分でも「2分遅れてすみません」とお詫びすることも、2分と敢えて明示することで相手に誠実さが伝わるというが、それもその通りだ。とはいえ、本書のいい点はそうしたひとつひとつの具体的な方法論ではない。もっと本質的なこと、すなわち人より一頭地抜けるほど徹底した「顧客(お客様)目線」にある。それは、最後の方にある一つの言葉に象徴されていると思う。

 「営業はお客様と相対するものではない。お客様の隣に座っているような感覚で取り組むことである」。

 こう書くとそのへんにある営業マニュアル本と変わらない気がするだろう。そうそう、言っていることの中身はそんなに変わらない。でも、そのへんのマニュアル本と違うのは、著者は他の有能な営業マンにありがちな、過去の成功体験を主張する居丈高さ、偉ぶったところを持ち合わせていないのだ。なぜか。著者も言うとおり、過去の成功体験が自分をダメにすると信じた上で、くだらないプライドはすべて捨てているからだろう。
 
 例えば、「アポイントに失敗しても、逆にそれを利用して、失敗した数の目標値を設定して、達成したら自分にほうびをやる」。さらには「目標を達成できなかったら坊主になると公言する」。坊主になる恥ずかしさに加え、坊主になれば目標達成できなかったことを周囲にアピールすることになる。家族にも自分はぐうたらで、決断力がないことを正直に告白した上で、「今日は8時になったら営業のアポイント取りの電話をするから、8時になってもやってなかったらダメ出ししてくれ」と助けてもらう。やっぱり、優秀な営業マンか、そうでないかの境界線は、プライドを捨てられるかどうか、そこが大きいのかも知れない。