映画 「息もできない」 ヤン・イクチュン監督

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評価★★★


 08年韓国映画。新鋭ヤン・イクチュンのデビュー作で、彼は監督だけではなく製作・監督・脚本・主演までひとりでこなしている。数々の国際映画祭の賞を受賞したらしく、前評判が良かったから、期待して観にいった。
 
借金の取り立てを生業とする一人のチンピラというかヤクザもんの青年、口癖は「クソ野郎」、暴力的で男・女や同僚・部下おかまいなしに殴る蹴る。ただ、そんな彼にも幼い家族がいて、一緒には暮らしてないが、父親と姉、そして姉の息子で幼い甥がいる。ただし父親はDVの果てに母親を殺して送り込まれた刑務所から出てきたばかり、そんな父親など許せるはずがなく、憎しみからいつも父親を殴っている。一方で、旦那と分かれシングルマザーとなった姉のもとで育てられている甥のことは気になって仕方がない。借金の取り立てで得た金を甥にはためらうことなく与えている。そんなヤクザな青年が道ばたで一人の女子高生と出会う。青年が吐いた唾が女の子の服にかかり、女の子が怒って青年に食ってかかったわけだ。女の子も、これまた父親の暴力がもとで母親が蒸発、そのショックでボケた父親と、毎日仕事もしないで金だけせびってブラブラしている兄と3人で生活保護費で暮らしている。普通なら、泣きたいほど切ない暮らしぶりだが、泣いたって現実が変わるわけではないから泣いていられない、そのことを理解している気丈な女の子だ。

 でも出会った二人は恋に落ちるわけではない。女は単に無骨なチンピラだと思っているし、男もどうでもいいが生意気なガキと思っている。それでも二人は社会の底辺層に位置しほぼ似たような境遇に育ってせいもあり、なんとなく通じるものがあるだろう、青年と甥とのコミュニケーションを介して縁が深まっていく。そのうちに女の子の方が男に対して徐々に好意を抱き始める。二人の関係はどうなるのか、そして青年と女の子それぞれの家族、それぞれにどうしようもなく最低な家族たちはどうなるのか。

 結末はハッピーエンドではない。だからいいのだろうし、そこが評価されるゆえんだと思うけど、個人的には途中で結末が読めてしまった。前に観た韓国映画にもこんなのがあったって言う感覚がラストに近くなればなるほど感じてくる。しかもこの映画、途中のセリフで「韓国における典型的な父親――外づらはいいが、うちに帰ると王様のごとく暴力的に振る舞う男」を非難しているが、そうやって非難しながらも筋立ては一人のマッチョで暴力的な男とそれになぜか惹かれてしまう女子高生というマチョリズム、パターナリズムから脱していない気もしていやだった。



追記 5月1日

でも、もっともっと予定調和的で、ノイズもないからナイーブで、閉じた世界ばかりの最近の日本映画に較べれば、遥かにいいので、2点から3点に上げた。