「方向音痴の研究」  日垣隆著

方向音痴の研究 (WAC BUNKO)方向音痴の研究 (WAC BUNKO)
(2007/04)
日垣 隆

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評価★★

タイトルがずいぶん面白そうだから釣られて買っってしまった。著者は日垣隆だけに、綿密な取材に裏打ちされたノンフィクションだと思って買ったのだが、なんだ、彼がアンカーを務めるTBSラジオ「サイエンスサイト−ク」の過去の放送分から方向音痴に関連したものを5つ収載した本だった。
 
最初は全盲社会学者との対話。彼はどうやって生活し、学問しているのか。続いて、動物行動学者にハチや魚・鳥などがどうやって方向を把握しているのかをインタビューしたもの。3話目は三菱電機のカーナビの開発技術者に、4話目では住宅地図会社ゼンリンの担当者にそれぞれカーナビとデジタル地図の開発物語を聞いている。1―4話はどれも方向音痴を直接テーマにしたものではなく、単に関連しているだけである。最後の5話目でようやく方向音痴の話になり、発達心理学の学者に方向音痴のメカニズムを直接うかがっている。だから、読み始めてからしばらくのあいだ、「それはないよな〜」というガッカリ感を抱きながら読み進めていったんだけど、そもそもアマゾンの古本で買っただけに仕方ない。アマゾンらネット通販は便利だけど、街の書店で買うときのように中身の確認ができないのが難点だ。

 ただ、話としては、さすがに一定のファン層を持つラジオ番組だけに、どれもなかなかに面白い。例えば、ミツバチは蜜のある方角や距離を仲間に伝える際の8の字ダンスにたまに失敗するらしく、強風が吹けば脇にそれちゃって、仲間に間違った情報を与えてしまうというのだ。安全な場所で生殖・繁殖させるために大陸を旅する渡り鳥は、ツバメなら太陽の位置で方角を把握し(太陽の位置は時間・季節によって変化するのにすごいね〜)、夜に飛ぶルジリコという鳥は星座で判断しているという(鳥目じゃないんだな、彼らはw)。砂漠に住むアリは、匂いと太陽の偏光を利用して帰巣するという(アリの脳を調べたらしい!!)。カーナビ開発に活用された米国のGPS用衛星は、湾岸戦争の前にわざと精度を狂わせていたため、カーナビ開発者は戦争が起こることを知っていたらしい(一般国民にも知らせてくれよ〜)。方向感覚の良い人って、常に「この道でいいのかな?」と用心深く歩いているもので、右左に曲がっても出発点と目的地の位置関係を常に感覚的に理解している、一方で、方向音痴の人は道を歩いている人など他の情報に気を引かれこることが多く、なぜか道順に対して思い込みが激しいという(そうだ、そうだ)。

 方向音痴とは、空間認知力が低いゆえに起こることらしいが、その克服も予想以上に困難のようだ。そういや、確かに方向音痴の人って、年とっても方向音痴のままな気がする。鋭敏な言論を武器とする著者がひどい方向音痴であることには驚いたが、わたしのこの驚きが象徴するように、方向音痴の人を愚かな人間に見てしまう思考パターン、つまり「大いなる偏見」が一般に共有されてしまっている。本書のまえがきには、著者が本書をつくった思いが記されているが、その思いにはワタクシも同感する。方向音痴=愚かしいという考えは恥ずべき固定観念である。