映画 「500日のサマー」

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評価★★★★


 ラブストーリーだと思って観に行ったけど、映画が始まってすぐにナレーションが「この映画はラブストーリーではない」と断ってくる。もちろん、大筋はボーイ・ミーツ・ガールのラブストーリーである。ただし、ロマンティックな男と現実的な女という、通常の恋愛映画とは逆パターンの映画である。

 ロサンゼルス。建築家の夢をあきらめ、クリスマスカードなどのグリーティングカードつくる会社でキャッチコピーを考える仕事に携わっているトムは、いつか運命的な恋の出会いがあると信じている。ある日、社長の新人アシスタントとして入社してきたサマーに一目ぼれ。サマーもトムの音楽センスやファッションなどに好感を持ち、二人は結ばれることになる。しかしながら、自由自立をモットーとし気ままなサマーは、運命の恋など信じず、恋に前のめりになるトムには私たちは友達として付き合いましょうと切り出し、トムはしぶしぶ了承する。二人の恋ははじめこそ愉快に機能していくが、次第にトムのサマーへの感情がむき出しになっていくにつれ、恋愛に軽さを求めるサマーとの関係がギクシャクしはじめる。結局、二人の恋は一年も経たずに終わることとなる。
 
 筋立ては、二つの時系列、つまり恋が始まって盛り上がるトムと終わりに近づいて苦しむトムの両方が入れ替わり立ち替わり交互に繰り返され、ラブストーリーでありながら恋には終わりがあり、けっして二人の関係はハッピーエンドにはならないことが最初から分かる。とはいえ、どのシーンもユーモラスで、切なくない。時にはミュージカル風なコミカルなシーンがあり、観ているものが気恥ずかしくなるほどの情熱的でエキセントリックなシーンもある。切った張ったの修羅場を迎えることはないが、観ているものを飽きさせない。同時に70年代風のタイトで上品さをもつカジュアルなファッションと、スミスら80年代後半のブリティッシュロック、レジーナ・スペクターの音楽が心地よい。レトロ趣味の建築物を中心に撮ったロスの町並みもクールだ。吸い込まれそうな青い瞳をもつヒロインを含め、俳優たちもピタリはまっている。総じてスタイリッシュである。アメリカ映画らしくない。そこはワタクシの好みでもある。
 
そして最後のシーンがいい。安易なハッピーエンドは採用せず、人生の現実というか儚さを正直に描いたことで哲学が生まれ、心地よい救いも生まれた。運命的出会いって本当はどうよ、に答えはない。あると思えばあるし、ないと思えばないみたい、まるで色即是空、空即色是。「ひきよせてむすべば芝の庵にてとければもとの野原なりけり」の東洋哲学的人生観(恋愛観)。そこにワタクシは強い共感と感動を覚える。