「第三の波」 アルビン・トフラー著

第三の波 (中公文庫 M 178-3)第三の波 (中公文庫 M 178-3)
(1982/01)
アルビン・トフラー

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評価★★★★★

 1928年生まれの米国人ジャーナリスト、アルビン・トフラーが1980年に書いた未来予測の論文。論文といっても高名なジャーナリストだけあって、さすがに読みやすいっす。しかし、残念ながら、いまや文庫すら絶版。実にもったいない。こうした良書を読むためにこそ、グーグルらが推進する書籍のデジタル化は急務であろう。
 
 本書は、当時すでに人類社会に押し寄せてきていた新しい社会的潮流について解説した本。第一の波を農耕社会へといたった農業化の波と位置づけ、第二の波を産業革命によってもたらされた工業化の波とする。いま押し寄せている第三の波は、彼自身は情報化の波と言うが、敷衍すれば、コンピューターや通信網の発展によるグローバル化の加速、エネルギーや資源の枯渇がもたらした革新的な社会システムの胎動の波である。そして、その第三の波によって、政治・経済・社会がすべてガラリ変わり始めていると著者は訴える。そもそも、新しい波が訪れれば、過去の波が浸透した社会は、遅かれ早かれいわばバージョンアップされるものであり、なんとフランス革命も米国南北戦争も日本の明治維新ロシア革命も、第一の波から第二の波への移行に伴う既得権益者との戦いの産物だとする。現代は、第二の波から第三の波へ進化する過程の過渡期にあり、だからこそ社会も政治経済も混迷しはじめている。人類は第三の波を積極的に受け入れていくいことが必要で、急務であると主張している。

 1980年と今から30年も前に書かれた本にもかかわらず、今読んでも目からウロコ。たとえば、エネルギーの石油依存や政治や経済の中央集権化など、われわれがアプリオリだと思っている社会構造はすべて第二の波の工業化がもたらしたものだと言う。現在の家族構成、政治経済や社会体制はすべて工場労働を前提とし、工場労働に適応させるための築き上げたものだとする論点なんて、読めば納得、久しぶりに快哉を叫んだw。そして、情報化によって産業がモノづくり優先からサービス優先に進むと、職場はスモールオフィスみたいな小さな形になり、人々の欲求は多様化し、結婚・核家族という(工業化の時代にふさわしい)システムも崩れ、国家も国家の体をなさなくなり、何もかもが【規格化から多様化】へと変容していく。結果的に地域地域に適合した資源の活用が進み、エネルギーも石油一辺倒ではなくなり、再生可能なエネルギー化が進むといった意見は実に鋭い。人間社会の希薄化といった混迷すら、第二の波と第三の波の不可逆的対立から生じたものであるという論旨にもすこぶる説得力がある。そう、彼が30年前に著したこの本は予言していたのだ。もちろん、納得いかない点も複数あるし、本書で著者が最後に示す提言が正しいとも思わない。でも、それらは30前ということで許してあげよう。やはり、物事や社会現象は、「地頭を鍛える」のフェルミ推定ではないが、個々を捉えるのではなく常に「長期的に」「俯瞰的に」ということを意識して多角的に捉えるべきであると考えさせられた。