映画 「イングロリアス・バスターズ」 タランティーノ監督作

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評価★★★★

 第二次世界大戦下、ナチスドイツに占領されたフランス。反ユダヤ主義を掲げるナチス軍は非道なユダヤ人狩りを進める一方で、イングロリアス・バスターズと周囲に称される凶暴なアメリカの特殊部隊がフランス内に潜入、次々とナチス兵を捕らえては殺し、死体の頭部からナイフで頭皮を剥ぎとり、ナチス兵に恐れられていた。
 
 時はさかのぼって、フランスの田舎町。その冷酷明晰な頭脳を持って有能なナチス軍司令官、通称ユダヤハンターのランダ大佐に居場所を突き止められ、家族を虐殺されるも、なんとか一人の幼い女の子ショシュアナだけは銃弾の雨を受けずに済む。なんとか生き延びて、今はパリでユダヤ人であることを隠しながら映画館を経営して生計を立てている。あるとき一人の若きナチス兵に一方的な求愛を受け始めたことをきっかけに、ショシュアナの映画館でナチスドイツの栄光をつづった映画の上映が決定、なんと宣伝相のゲーリングだけではなく、総統のヒトラーまで訪れることとなる。スパイを使って上映情報を得たアメリカはバスターズを使ってナチス幹部を一網打尽に殺す計画を立てる。

 もちろん、本作はパロディ好きなタランティーノの映画だけに、内容は史実とはまったく違っているが、さすがに題材がナチスドイツという人類史上に残る非道な史実へのパロディともなると多少やりすぎだと思う観賞者も多いだろう。そもそも大戦後まだ70年あまり、ナチスドイツと聞いただけで虫酸が走る人が多いことは、私も知っている。加えて、反ナチス主義の物語をユダヤ人スタッフの多いハリウッドがつくり、しかもナチスの非道行為には頭皮を剥ぐという「目には目を」的な残虐さで報いていることに、倫理的に納得いかないと感じる人もいるだろう。事実、たまたま読んだニューズウイーク誌はその最後の点を指摘して酷評していた。
 
 ただ、タランティーノの映画ってほぼすべてがバイオレンスアクションを売り物にし、凄惨なシーンを伴いつつもパロディであることを故意に演出したものばかり。多くの観客はその現代性を受け入れ、堪能しているのが現実だろう。私も面白かった。いい意味での裏切りがある脚本は観ていて飽きないし、俳優たちも一様にすばらしい演技をする(特に、ランダ大佐役がすばらしい)。一流の知的エンタメだとも思う。パルプフィクションが与えたような衝撃はもちろんないが、さすがにタランティーノである。