映画 「マラドーナ」

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評価★★★★


 「アンダーグラウンド」「ライフ・イズ・ミラクル」などオレのだ〜い好きな映画をつくったユーゴスラビアの芸術的映画監督にして映画界の至宝、エミール・クストリッツアの最新作。今回もすばらしい映画だが、映画ファンが観る映画ではない。マラドーナが好きな人だけ観ればいい。

 言わずと知れたサッカー界の偉大なる天才レフティー、現在はアルゼンチン代表の監督をしているディエゴ・マラドーナの2005年―08年までを追いかけたドキュメンタリー。といっても、彼のサッカーに対する熱意とか彼の好むプレースタイルに焦点を当てたものではなく、もっと深い人間性や政治的信条を追ったもの。己の感情にすこぶる正直に生きている彼は基本的に反米、反イギリスである。チェ・ゲバラを崇拝し、カストロを民衆側に立つ清貧で立派な政治家とあがめ、ブッシュ前米国大統領はもちろんアメリカの大統領やイギリスの首相らを毛嫌いする。昔からそうだったらしく、86年のワールドカップでの伝説の「五人抜き」や「神の手」によるゴールは、フォークランド紛争の仇打ちだらしいw。街に出れば、育ったブエノスアイレスでも、選手時代に過ごしたイタリアのナポリ(巨大資本チームを見返すべく、わざと南部のナポリを選んだらしい)でも、人気は絶大、周囲を埋め尽くすほどの人々に熱狂的に歓迎される。日本のアイドルスターなんか目じゃないくらい。ここまで人気があるのは、おそらく、マラドーナが華麗な足技を持つ不世出のスーパスターであったことはもちろんだが、それに加えて、とっても自分に率直であること、過去にコカイン中毒者としての負の部分というか自分の弱さをも包み隠さない、極めて正直で分かりやすい人間であることもあるのだろう。同時に、彼は誰かれ分け隔てなくやさしく、家族を愛し、地元を愛し、ブエノスアイレスの貧しい家庭で育ったことを誇りに思い、今は金持ちかも知れないけど生活も格好も慎ましやかだ。サッカーを見るまなざしは少年のようである。ここまで純朴だと、コロコロ肥えた体格もあって、とっても魅力的、母性をくすぐるようなキュートさをたたえて見える。
 
 監督のクストリッツアも、政治信条は反米で大衆の側に生きる監督だからだろう、マラドーナの本音、人間味をうまく引き出すことに成功している。映画の途中で分かったんだけど、クストリッツアってサッカーがすごく上手で驚いた。