小説 「運命の人」  山崎豊子著

運命の人(四)運命の人(四)
(2009/06/25)
山崎 豊子

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評価★★

 月刊誌「文藝春秋」に05年1月から09年2月までの5年にわたり連載された、山崎豊子の最新作。1972年の沖縄返還における日米間の密約を知った元毎日新聞記者が(外務省女性事務官との不倫を含む)取材で得た機密情報を第三者に漏らしたとして逮捕された「外務省機密漏洩事件」をモデルに小説化したもの。あとがきによれば、ずっと第四の権力たるメディアについての小説を書きたかったらしい。
 
 著者が執筆を決めて取材を始めてから連載を開始するまで4年近く、連載を始めて完本まで4年。つまり、小説を書き終えるまで、なんと8年の年月をかけている。著者はいまや84才、年老いても衰えぬエネルギーで取材を重ね、フィクションの体裁を装ってはいても「すべては真実ではないか」ともいえるドキュメンタリータッチの内容で、ねっとりとジメジメ肌にまとわりつくように進んでいくストーリー展開には敬意を表したくなる。さすが山崎豊子、社会の暗部を小説に織り込む実話作家である。刊行と時を同じくして、ってか、まるで時を合わせたかのように、作家の澤地久枝が3月、密約文書の開示を求めて訴訟を提起。一方で、内容は異なるが、1960年の安保改定の際に核兵器の持ち込みを巡る日米間の密約の存在を元外務事務次官が認めている。そもそもアメリカは一定の年数を経た公文書はすべて公開するため、それら密約があったことも衆知の事実となっているが、それでも日本政府は外務省のプライドがなせるわざなのか、けっして認めない。そのため、何年たっても事件が取り沙汰される結果となるわけだけど、おかげで日本を代表する小説家である山崎豊子をして、おそらく最後であろう小説の執筆意欲を駆り立たせたわけだ。

 とはいえ、内容への評価となると、本を貸してくれたマイミクさんの言うとおり、第4巻からイマイチさを感じてしまった。主人公のジャーナリストが有罪判決を受けて失意のまま沖縄に移住するところまではいいのだが、その後のストーリーテリングは、沖縄で発生する米兵による少女暴行事件、日本政府の沖縄に対する冷たさ(配慮の足りなさ)など現実に起きたことのある事件を都合よく、かつセンセーショナリスティックに絡め、さらには、万人受けしやすい「沖縄被害者論」をも都合よく繋ぎ合わせていっただけ、つまり、「こんな物語ならどっかで読んだことあるよ」的なデジャブ感を禁じ得ない。だから、最後の「落ち」が迫力不足で、アメリカで密約の存在事実が暴かれるシーンもいまいち感動的ではない。更に言えば、人物造形がありふれているというか、特に主人公のジャーナリストがいわゆる古典的ジャーナリストそのもので、ハマリ過ぎていて面白味がない。その妻とのやりとりも前時代的というか古風過ぎて、読んでるこっちが恥ずかしくなる。気色悪い。総じて安っぽいテレビドラマ的なのだ。もしかしたら、これが著者の言う、マスメディアを小説化することの難しさなのかもしれない。