「使える弁証法」  田坂広志著

使える 弁証法使える 弁証法
(2005/11/25)
田坂 広志

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★★

 あるネット番組でヘーゲルについて語る著者を知り、興味を抱いてアマゾンで著者の本を検索し、それらのレビューを眺めると、どれも高い評価。難しそうだからかじったこともないヘーゲル哲学について、少しでも気楽に学べるのならば損はないと、古本2冊を買ってみた。
 
読み始めて驚いた。まず、最初の一冊、「使える弁証法」は197ページとそこそこに厚いが、1ページあたりの行数が驚くほど少ない。多くて12行、少ないと4行! 普通の書籍ならば、厚み半分、うまくやれば3分の1に圧縮できる。紙資源の無駄づかいだ。また、期待した内容も、ヘーゲル哲学にはほとんど触れず、単に弁証法の中から、執筆に都合のいい文章を4、5行ほど引用し、そこにマッチする都合のいい事例を恣意的に当てはめ説明しているだけ。そもそもヘーゲルはかなり難解だと言われる哲学者だが、著者はヘーゲルの書籍を読んでいるのだろうか。

 とはいえ、本書がムダだとは思わない。これまでのネットビジネスの世界を俯瞰的に見てみれば、彼が言う5つの「法則」はすべて当てはまるし、それらは誰しも感じていることであっても、改めて整理することは大切なことだと思うからだ。彼がいう法則は5つ。ここで紹介してもいいが、一つだけにしたい。

 ?「物事は直線的ではなく螺旋的に発展する」。 つまり、物事は、発展する際に元の場所に戻りつつも一段進歩しているというのだ。例えば、ネットオークションは昔の競りが発展したもので、ギャザリングは合理化された生協システムだ。みんな懐かしいものだが、ちょっと便利になっている。まあ、こんな感じの法則?を教えてくれますw。

 ?「物事は、否定の否定により発展する」= 変化は物事のある側面が否定されることで始まり、変化が極限に達するとさらに否定され、そこから発展していく。例えば、地方の個性的な薬局が均質的なドラッグストアになり、今度は再び個性的なドラッグストアが見直されてきているように、合理化は個性から均質へ導くが、均質化が行き尽くと反転して再び個性化に回帰する。陽、きわまれば陰、隠きわまれば陽)である。
 
 ?「物事は量から質への変化により発展する」= 量が一定水準を超えると質への変化が起きる。アマゾンは「販売代理業」では決してなく、いわば「購買代理業」である。これまでのようなメーカー主導の流通市場は質的に変化し、流通はすべて顧客のコンシェルジュとして再発展する。ここに、本格的な顧客中心市場の幕開けとなる。
 
 ?「対立物の相互浸透による発展の法則」= 争っているものは互いに似ながら発展する。その例として、リアル店舗とオンラインショップの融合が挙げられる。
 
 ?「物事は、矛盾の止揚により発展する」= 矛盾のマネジメントは、発展の原動力。利益追求と社会貢献の矛盾をマネジメントに成功した企業こそ発展していく。

 まあ、ここまで読んでくれた方は、どう思うだろうか。興味のある方、本は買わなくてもいい、いつでもお渡しいたしますw。