映画 「レスラー」  ダーレン・アレノフスキー監督

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評価 ★★★★★

  ミッキー・ロークといえば、懐かしさを覚える方も多いのではないだろうか。
 
 ワタクシのような30代後半の人間にとり、彼といえば、女たらしのセックスシンボル。あるいは、その後、インチキボクシングで地位もカネも失ったバカ男優っていう印象。やっぱ、鮮烈だったのは映画「ナインハーフ」であり、女性の乳首に氷を這わせたセックスシーンだろう(http://www.youtube.com/watch?v=qLLm7GJ9uAw)。あの頃の彼の表情は実に淫靡であり、男の私でも背筋がゾクゾクする。その後、彼はいったん俳優をやめてプロボクサーに転向し、日本でもネコパンチで相手を伸したインチキ試合を憶えている方も多いだろう。
 
 その彼が本作に、地方の看板プロレスラー役の主人公として帰ってきた。看板プロレスラーといっても、テレビ放送もない、少数のファンを相手にした興業で食っている中小団体のレスラー、平日はスーパーでアルバイトし、家はトレーラーハウス借りて生活し、それでなんとか仕事を続けられる程度。妻からは逃げられ、愛する娘からは相手にされない。もはや年を老いてプロレスを続ける体力にも翳りを感じる始末、ステロイドを飲んで身体をパンプアップさせ、白髪を金髪に染めて人気の維持に努力する、エンターテイナーとしてはもう限界ギリギリの生活。そんな彼も、ついに齢には勝てず、心筋梗塞で倒れてしまう。引退か、死を覚悟しての興業継続か。頼れるのは、先日ストリップクラブで出会ったばかりのシングルマザーにして踊り子(マリサトメイ)だけ。ヴェネチア国際映画祭金獅子賞を受賞した作品だが、その名に恥じない素晴らしいヒューマンドラマに仕上がっている。

 そもそも、ミッキー・ロークの顔には昔の美貌はまったくない。ボクシングで顔が崩れ、それを直すために整形したせいだと言われるが、そのせいか、彼はこの十年間、映画界で存在を忘れ去られてきた。ある雑誌に載っていた、彼の最近のインタビューが悲痛さを物語っている。「この十年間、映画界で私に優しかったのは二人しかいない。シルベスター・スタローンショーン・ペンだけだったよ」。たぶん事実だろう、世間ってそんなもんである。オレが苦しいとき、助けてもらいたいとき、慮って行動に移してjくれたやつなんて、殆どいなかったよ。話は戻るが、この映画でミッキー・ロークアカデミー賞主演男優賞の候補となったが、同男優賞をゲイ映画「ミルク」の活躍で受賞したショーン・ペンは、受賞の挨拶で、「自分の受賞よりも、ミッキー・ロークが映画界に帰ってたことが嬉しい」、みたいな言葉を口にしている。やっぱ、ショーン・ペンはカッコいいw。ただし、ワタクシは「ミルク」も観ているが、作品への評価が一般に高かった「ミルク」より、正直、本作の方がずっといい。主人公ミ、ッキー・ロークの演技も、そこそこよかったショーン・ペンより遙かにいいと思うくらいだ。あと、涙を誘うのは、ヒロイン役のマリサ・トメイ、昔メチャクチャ綺麗だった彼女、悲しいかな、今は年老いた姿をさらしている。それでもストリップ嬢として、乳房をあらわにして体当たり演技している。

 昨日、この映画を観た日(09年6月13日)、なんと、日本のプロレス界のスター、三沢光晴氏が、主人公と同じ心臓停止で亡くなった。私はプロレスが好きではないが、彼の試合はテレビで何度も観たことがある。すばらしいレスラーだけに、もう観れないと思うと残念だ。