三笠文庫 「孫子の兵法」  守屋洋著

孫子の兵法―ライバルに勝つ知恵と戦略 (知的生きかた文庫)孫子の兵法―ライバルに勝つ知恵と戦略 (知的生きかた文庫)
(1984/10)
守屋 洋

商品詳細を見る

評価★★★★

ナポレオンも石原莞爾も読んで研究したとされる、実戦論における古典中の古典、「孫子」。今から2500年も昔、およそ紀元前5世紀の中国春秋時代の兵法家、孫武が書いた大著のエッセンスをまとめたが、本書である。

 岩波文庫から出ている「孫子」(翻訳書)を読もうかと思ったけど、漢語よみ下し文みたいな文章だと、脳みそがすかすかな私にはえらく時間がかかりそうだと思ってw、初心者向けの本書にした。私には本書で十分である。文章は平易でわかりやすく、「孫子」を読まずとも孫武の兵法が何たるものか、それを十分に理解しえると断言できる。

  当然、「彼を知り己を知らば百戦して殆(あや)うからず」という有名な言葉や韓信の「背水の陣」のエピソード、武田信玄が好んだフレーズ「風林火山」の意味や解説などは当然盛り込まれ、さらには「軍律を重んじる一方、臨機応変を旨とし、勢いも大切にせよ」などといった、今に通じる実際の兵法もどんどん紹介してくれる。「兵力の多寡は絶対的なものではなく、相対的なものである。打ち破る鍵は自軍がいかに集中し、敵を分散させるかにある」なんて、当たり前だけど、兵法の神髄であり、読めばみんな改めて納得するだろう。
先日読み終わったクラウゼヴィッツ戦争論関連本よりもいい。クラウゼヴィッツはテクニカルすぎる。軍人にはいいと思うが、素人のオレにとっては孫子の方がスーっと体の中に入ってくる。

 マキャベリの「君主論」を読んだときに深く考えさせられたことだけど、建前を排した真のリアリズムって、当たり前だけど嘘臭さがなくていいw。なにせ人間社会には、マクロ的な政治風景においても、ミクロの対人関係においても、甘言や美辞麗句というか、響きのいい言葉ばかりの偽善に満ちている。現実を無視した正義感や理想論を振りかざす人間や、優しさという大義のもとに他人に媚びているとしか思えない人間、純粋すぎて観念的な人間、すなわち、清い水ばかり求めて淀みや濁りもある現実から逃げている人間であふれている。もちろん、それら理想や建前も大切なことだが、リアリズムを理解しえない人間は必ず、「世間」が厳しい競争の果てや自己都合のぶつかり合いから成り立っている現実から目をそらし、偽善を愛し、結果、「世間」に負けることになる。そうならないためには私自身、こうした著作に貫かれたリアリズムに、自ら積極的に触れていくべきだと思っている。
 
 正直、本書をあまり人に薦めたくない。それも、リアリズムであるw。