映画 「レイチェルの結婚」  ジョナサン・デミ監督作

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評価★★★★

 「羊たちの沈黙」のジョナサン・デミの最新作。主演は「プラダを着た悪魔」のアン・ハサウェイ

 ストーリーは、アン・ハサウェイ演じる主人公キムが、麻薬依存症患者の更正施設から9カ月ぶりに家族のいる実家に帰宅するシーンから始まる。帰宅した日は、姉レイチェルの結婚式の前日。手作りの結婚式の準備で家族は大わらわ、自宅にはキムが知らない関係者が大勢、キムが久しぶりに帰ってきたのに話せる相手も居場所もなく、徐々に疎外感や苛立ちを覚え始める。頼りにしている姉は結婚後すぐにハワイに移り住むことも当日初めて知り、苛立ちを募らせたキムはパーティーで自分の状況について長広舌を振るい、主役の座を奪われたと感じたアネが今度は怒りを爆発させる。 

 「プラダを着た悪魔」ではまるでアイドルスターみたいな役柄でアイドルスターみたいな大根演技しかできなかったアン・ハサウェイが、いっぱしの女優に脱皮し、体当たり演技を見せていたのには好感が持てた。脇を固める役者たちもみんな自然だし、嘘臭さがない。でも、何よりいいのは脚本だ。「その土曜日、7時58分」などで著名な巨匠、シドニー・ルメットの娘ジェニー・ルメットが書いたらしいが、心のひだを手繰り寄せていくような内容ですばらしい。薬物依存症から立ち直り始め、もともと素直でない性格だが懸命に克服しようとする妹、そしてそれをサポートする父と姉。病なんて何であれ一人で自律的に治していくのは容易ではないが、精神的な病ならなおさら周囲のサポートが必要だ。かといって、その家族にも自分の生活があり、自分のアイデンティティがある。己を捨てて全身全霊で尽くすことなど、親子ならいざ知らず、兄弟姉妹であっても難しい話なのだろう。常に苦労させられてきた姉は、その苦労のほどを妹にも自覚してもらいたい。妹はもっと姉らしく気丈でいて欲しい。摩擦は必然的だ。とはいえ、姉妹は姉妹、家族は家族、やはり最後のよりどころであり、ラストリゾートなのだろう。だからこそ、離婚して今は他の男と暮らしている母親が、自分の娘にすら薄情で冷徹さをもって挙式を中座するシーンが対照的で、印象深いものとなった。

 映画をみた人の評価はけっこう高い。映画館にも予想以上に多くの人がいた。ただ、好き嫌いは大きく分かれると思う。映像はホームビデオで撮ったような荒れやブレが絶えず、目がチカチカして不快に思う人もいるだろう。内容だって、単なる一家族の内輪の話だから「そんなスケールの小さな内容、オレだったらねむったくなるよ」、あるいは映画通の中にも「結婚式の映画なんて他に多くの著名監督たちが撮ってきたじゃん、何を今更」と批判する人も多いだろう。それらは至極、もっともである。
 でも、恣意的なカメラの荒れやブレは小さな家族の物語をホームドラマ風に演出していく上で相応しい手法だとも思うし、内容が小さな世界に留まっていても小さな世界にこそ社会の雛形が垣間見えるものでもある。