小説 「リリィ、はちみつ色の夏」  スー・モンク・キッド著

リリィ、はちみつ色の夏リリィ、はちみつ色の夏
(2005/06/18)
スー・モンク・キッド

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評価 ★★★
  日比谷で「リリィ、はちみつ色の秘密」という、ほのぼのとして心地よい映画を観て、帰り際、映画館のカウンターに積んであった原作本をふと買ってしまった。

 内容は、公民権法が制定されたばかり、まだ人種差別が公然と残っている1960年代末のアメリカ。母親に死別された少女が、乱暴で薄情な父親のもとを出て、母にゆかりのある黒人の養蜂家姉妹を訪ねて居候させてもらう。黒人姉妹の持つ、屈託のない笑顔、音楽が鳴ればステップ踏んで踊り出すような軽やかさ、すべてを許してくれるような優しさや温か味に包み込まれ、母を失い絶えず愛情の証を求め続けてきた少女の心を和らげてくれるという、いわば癒しの本。一章一章の始めに、ファーブルら昆虫学者や著名人がしたためたハチの生態その他に関する文章が掲載されていて、それがさらに読む者への癒しとなっている。

 ただ、本小説の内容は、映画のそれとはところどころ違っている。映画では、一緒に逃げ出した黒人の使用人ロザリンから「あんたも人種差別の意識を(潜在的に)持っている」と指摘されて深く逡巡する場面が小説よりかなり軽く扱われ、最後、リリィを連れ戻しにきた父親に改めて聴く質問は物語の中核をなすものであるにもかかわらず、小説のそれと映画のそれとはまったく違うものになっているため、読後の印象はかなり違ってくるはずだ。小説の方がズシリと重く、かつ、著者が訴えたいテーマは多面的だ。映画の方はコンパクトで軽く、テーマは一つ、死別した母と(精神的に)再び邂逅して愛情を確かめ合うこと。正直、映画の方がいい。テーマが一貫していることもあって、小気味よくまとまっている。でも本書は、女性の作家が書いた、女性が主人公の小説。映画の方がいいと断じた私は男性なので、もしかしたら本書を深く理解できてないかも知れない。本書あるいは映画どっちでもいいけど、多くの女性に触れてもらいたい。特に、日頃強がりながら仕事にがんばり、面倒な人間関係にも対処し、つまらない俗世間でなんとか踏ん張って生きている女性に読んでもらいたい。