新潮文庫 「夢判断」 ジークムント・フロイト

夢判断 上   新潮文庫 フ 7-1夢判断 上 新潮文庫 フ 7-1
(1969/11)
フロイト

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評価★★★
 
 貧しいユダヤ商家育ちの精神医学者、フロイトが、人が寝ている間に見る夢、その内容が暗示するものについて論考し、世間に衝撃を与えた本。長くて難しい。特に最後の章である「夢の作業」なんて、恥ずかしながらほとんど理解できず、飛ばし読みしたw。

 でも、そもそもワタクシ、最近でこそ見なくなったが、以前ほんとよく見ていた夢が一つある。それは、地上5メートル上空をスーっと飛行している夢。市街でも田舎でも思い立ったときポンと上空に体を預けると、そのまま羽もなく空をゆったり飛ぶことができる。周囲には人がたくさんいるんだけど、ほとんどの人は気付いていない。あの夢はいったい何なのか? そのほかにもたくさん解明したい夢がある。夢が分かれば、もしかして人間の精神心理について多少なり詳しくなり、ひいては社会における人々との接し方を学べる。将来、仕事にも活かされる時が来るだろうとも思っていた。もちろん、そんなうまくはいかないものだw。

 内容は、夢の問題について多くの学者がトライしてきた推論の数々をまとめることからスタートする。なんと、かのギリシャ哲学者、アリストテレスも夢を解明しようとして、文章をしたためていたのだ。その後もたくさんの学者が夢について分析している。たとえば、「夢はすでに体験したことを材料にする」(だから、人間がいったん精神的に所有したものは跡形もなく失われるといったことはない、頭の中のどっかに記憶されているんだって)なんてことは、フロイト以前からの定説だったらしい。あるいは、体の生理的状況や身体への刺激も夢の内容に関わりやすく、「かけぶとんを落とすと凍える夢を見る」とか「精液がたまると肉欲の夢をみるw」といったこともずっと以前から複数の学者が強調していたのだ。つまりね、夢の内容は決して支離滅裂な脳活動の表現ではない、個々に理由があるということは、フロイトが単独で述べたことではなかったんだね。

 さて、当フロイトが出した独自の推論だが、それは前述した過去の学者たちの分析を踏まえ、自らも長く開業医として多くの患者に接してきてその実例を紹介しながら、こう紐解いている。

    夢の内容は願望充足にある。夢の動機も願望充足にある。

 もちろん、願望充足というと反対する人もいるだろう。何せ、夢は概してハッチャカメッチャカ、荒唐無稽、しかも、不安な夢や、恐怖を感じる夢もある。愛する家族を失うような不安な夢を見るなんて、願望の充足とは言えないのではないかってね。そこで当フロイト、そうした予想される反論には、「人には他人に言いたくない、自分にすら白状したくない秘密があるものだ」と訴え、人はそれら秘密(願望)をそのままストレートには表現せず、なにか代わりのものに置き換えて夢の中で表現する。荒唐無稽にしているのは、見ている人本人が意図的にそうしているのだ。つまり、人は夢の内容を自ら勝手に「検閲」する。その結果、夢の内容が大きく「歪曲」されちゃうというんだ。だから、もうとっくに失っていたはずの古い記憶が夢の中でよみがえってきた、なんてことも歪曲の結果の一つ。しかも、人の多くはサディズムの裏側にマゾヒズムをも隠し持っており、不安な夢や恐怖の夢もみんな快感とか満足に還元しうるらしい。そう、すべては「検閲」による結果、「歪曲」の所産物なんだって。

 だから、夢は願望充足といっても、ある抑圧され、排斥された願望の、偽装した充足である、ってことらしい。

 さて、ワタクシも含めて知りたい類型夢。飛ぶ夢って何を意味してんの、みたいなね。ここの章では、世間で言われている、フロイトって何でも「性的欲求」に置き換える人だよね、っていうイメージそのもの。某とか剣とかペンとか帽子とかはすべて男性性器、袋とか箱とか部屋とかはみんな女性性器といった風にね。フロイト自身も驚いていて、「人の性的欲求って予想する以上に強いものであると分かった」と述べている。ただし、類型夢は断片だけで結論づけることには注意を促している。夢って、最初から最後まですべて深く聴いて掘り下げることで、ようやくその一部の断片が何を表しているか分かるんだって。すべて通して聴いた果てに、あれは性器だよ、みたいな結論になるらしい。しかも結論づけるには、心理学や精神医学への膨大な知識と夢に関する対話訓練が必要で、本書を読んだシロウトが結論づけられるほど甘くはない。まあ、酒場で「それって、○○の意味なんだよね」って、衒学的に偉ぶって酔客に吹聴するくらいなもんだろうなw。あ、ワタクシの飛ぶ夢は、不浄な俗世間からの逃避ってことだったみたいw。