映画 「フロスト×ニクソン」 

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評価★★★
 「バック・ドラフト」「アポロ13」などの大作で名高いロン・ハワードの最新作。観ようとは思ってなかったが、友人からなかなか面白いぞと言われたので、先週チネチッタに行って来た。
 
 1977年、当時とっても人気のあったイギリス人のテレビ番組司会者、デイヴィッド・フロストが、ウォーターゲート事件で失脚して以来おおやけの場に出てきていない前大統領リチャード・ニクソンを自らの独占インタビューに引き吊り出すことに成功する。その準備とインタビューの数日間を追ったもの。
 
 フロストは、持てる経験とテクニックを駆使し、周囲のサポートも得てニクソンからウォータゲート事件の盗聴や不法侵入などの真相とアメリカ国民への謝罪を引き出そうとするが、なにせニクソンは大統領まで登りつめた、言語表現の力を十分に知り尽くした叩き上げの老獪な政治家。いわんやインタビューなんて得意中の得意だが、この機会を利用してどうしても失地回復を図りたいと考え、全力を賭してかかってきた。金と知名度とプライドをかける野心家のフロストが意図する展開にもっていけるかどうか、インタビューはまさしく両者の決闘の場にほかならない。実際、映画のクライマックスにかけての盛り上がりは手に汗握る。しかも、ニクソン役の俳優が迫力満点、声も地面に響くような重低音で、体からみなぎる重厚感はまさくしオーラ、カリスマ性すら感じてきて、すこぶるカッコいい。たぶん本人以上の迫力ではないか。日本でいえば、田中角栄のような、清濁併せ呑むタイプの政治家が持つ凄み、存在感を上手に表現している。ただ、そのぶん、フロスト役の俳優さんの影が薄まり、ちょっと可哀想な気もしたが。
 
 ところで、ストーリーうんぬんよりも、感じ入ったのは、ワタクシの仕事にも関係するので恐縮だが、インタビューに際する報道側の姿勢。真摯なインタビューってかくあるべきだよな、と、改めて思わされた。BBCのハードトークとか、CNNのラリーキングライブなんかも同じことだろうけど、和気あいあいのインタビューがけっして悪いとは思わないが、相手に聞きづらいことを聞き出すのは報道として当然のことであり、そこにニュースバリューがあるとすれば、相手を傷つけることを覚悟し肝を据えて臨み、自分の覚悟のほどをちゃんと相手に伝えないとならない。そうして臨めば相手も「これは決闘だ」と理解するものだ。そのためにも、しっかりと事前準備して知識をかき集め、そして、たぎるパワーと同時に冷静な状況判断で目の前の相手と対峙する。なんか、幻冬舎見城徹みたいな表現になってしまったが、そう、そうでもないと、それなりの小粒なインタビューでしかならないのは明白であろう。