映画 「リリィ、はちみつ色の秘密」

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評価★★★★★


  全米で500万部売れたベストセラー、「リリィ、はちみつ色の夏」、(原題は“The secret of life of bees)を映画化したもの。といっても、原作とはだいぶ違うらしいが、先般立ち読みした週刊文春の映画レビューで中野翠ら全員が高く評価しており、そんなことは滅多にないから余っ程いいのだろうと思って、日比谷の劇場に足を運んだ。女性が書いた小説が原作の、女性監督が撮った、女性が主人公の映画。主人公は、「アリー・マイ・ラブ」のダコタ・ファニング
 
 本来なら、こんな女性ばかりの映画、ちーと恐縮してしまうワタクシですが、どっかの広告に「心の奥底に染み入って泣けてくる。でも後味はとっても心地よい」みたいな文章があって、それが決め手となった。なにせワタクシ、個人的に最近とても辛いことがあり、泣ける映画でも観て存分にカタルシスを得たかったのだw。案の定、映画のクライマックスには、多くの客席から鼻をすする音が聞こえてくるほど、涙をさそうものであったし、しかも観ていて飽くことのない、小ぶりだけど質のいい、余韻も楽しめる素晴らしい映画だった。

 1969年の米国サウスカロライナ州。ときの大統領、ジョンソンが、黒人差別をなくす公民権法に署名、合衆国法上は白人と黒人の差別がなくなった。いくら州の自主性が高いアメリカであっても、州が勝手に黒人の選挙権を制限することを禁じ、いくら民間企業であっても、交通機関やレストラン、映画館といった比較的公共性の高い施設で白人と有色人種の席や出入り口を分けることを禁止した。1969年といえば、私が生まれた1971年のたった2年前。それまでのアメリカは、黒人といえば多くが白人の使用人、リンカーン奴隷解放宣言など名ばかりの状態にあり、しかも、その後も人種差別はなくならず、あたかも公然と続いていくのだ。といっても、この映画は社会派映画ではない。幼い頃に蒸発した母は、本当に自分を捨てて家を出ていったのか、心に傷を負った14歳の一人の少女の葛藤と、自己の確認のための旅立ちの語である。

 本当は、あらすじから主人公の揺れ動く気持ちとか、いっぱい書きたいんだけど、久しぶりに琴線に触れうる、みんなに薦められる、すこぶるいい映画なので、なくなく割愛するw。なにしろ、主人公のダコタ・ファニングの繊細さと、はちみつ農園の主人役のクイン・ラティファの包容力が(対をなすように)すこぶるマッチしている。ところどころ説明不足を感じたり、納得がいかないシーンも出てくると思うし、観る人によってはエキサイティングじゃないからツマラナイと感じる人もいるだろう。でも、たまにはそんな私小説的な、重くも愛情に満ちた映画もいいのではないか。

 やはり人間はもろく、けっして一人では生きられない。近くに、自分を愛して見守ってくれている、包みこんで支えてくれていると、信じうる人がいないと、精神が破綻する、生きていくのさえ苦しくなる。そんな当たり前のことに、今更ながら気づいたよw。