評論 「プラトン哲学」  ジョン・バーネット 岩波文庫(絶版)

評価★★★

 生涯を哲学家プラトンの著作研究に捧げたというイギリスの硯学によるプラトン入門書。
 入門書といっても論文調で、しかもすでに絶版書。漢字はどれも旧字、言い回しもひと時代前のもの。けっして読みやすいとは言いがたいが、内容は濃厚で読んでいて楽しかった。ってか、なかなかためになった。
 
 読み始めてすぐに翻訳者による解説に「哲学史家の通説とは異なる解釈所論が1、2に留まらない」とあるように、これまでワタクシが仄聞したことのない独自理論が散見され、それらが予想外に、説得力を持って展開されている。特に、なるほどと思ったのは、?イデア論の発案はプラトンではなくソクラテス、?通常、プラトンはその晩年にイデア論を捨てたとされるが、捨てたのではなく、イデア論を持っていたソクラテスを超越してしまったから、―-という主張で、これまでのワタクシの疑問がここで氷解されたと感じてしまうほど、十分に得心がいった。
 
 アリストテレスに容赦ない評価を与えているのも斬新だ。弟子アリストテレスが師匠プラトンを超越したというのは、一般に流布している誤解だと言うんだ。天文学も数学も、アリストテレスよりもプラトンのなした業績の方が大きいとし、アリストテレスがいなければ天文学はもっと早くに進歩していたとすら語る。数学もエジプトからもたらされたのではなく、プラトンが独自に発展させたんだんであって、広範で緻密なローマ法の起源もプラトンの著した「法律」にあるとしている。

 ただ、終盤には納得いかない点もあった。例えば、古代ギリシャ多神教社会ではなく、多神教であるのは神話や文学の中。神話は架空のもので、古代ギリシャ人もプラトンも神話も神々も信じておらず、本当は古代ギリシャ人もプラトンもひとつなる神を信じていた、としているくだり。まあ、その主張はいいとしても、その理由に違和感を覚える。著者は、(ホメロスの「イリアス」にあるように)神話に出てくる神々は人間より下品に描かれており、下品な描き方をされていること自体、宗教的信仰の対象ではなかったことを表しているというんだ。うーむ、神々が快楽的で下品であったとしても、信仰の対象にならないとは限らないのではないかなあ。しかも著者は、古代ギリシャには聖典もない、それをもってしても信仰があったとは言えない、というんだ。キリスト教のような啓典宗教だけが宗教ではないと思うんだけど。

 生涯を哲学家プラトンの著作研究に捧げたというイギリスの硯学によるプラトン入門書。
 入門書といっても論文調で、しかもすでに絶版書。漢字はどれも旧字、言い回しもひと時代前のもの。けっして読みやすいとは言いがたいが、内容は濃厚で読んでいて楽しかった。ってか、なかなかためになった。
 
 読み始めてすぐに翻訳者による解説に「哲学史家の通説とは異なる解釈所論が1、2に留まらない」とあるように、これまでワタクシが仄聞したことのない独自理論が散見され、それらが予想外に、説得力を持って展開されている。特に、なるほどと思ったのは、?イデア論の発案はプラトンではなくソクラテス、?通常、プラトンはその晩年にイデア論を捨てたとされるが、捨てたのではなく、イデア論を持っていたソクラテスを超越してしまったから、―-という主張で、これまでのワタクシの疑問がここで氷解されたと感じてしまうほど、十分に得心がいった。
 
 アリストテレスに容赦ない評価を与えているのも斬新だ。弟子アリストテレスが師匠プラトンを超越したというのは、一般に流布している誤解だと言うんだ。天文学も数学も、アリストテレスよりもプラトンのなした業績の方が大きいとし、アリストテレスがいなければ天文学はもっと早くに進歩していたとすら語る。数学もエジプトからもたらされたのではなく、プラトンが独自に発展させたんだんであって、広範で緻密なローマ法の起源もプラトンの著した「法律」にあるとしている。

 ただ、終盤には納得いかない点もあった。例えば、古代ギリシャ多神教社会ではなく、多神教であるのは神話や文学の中。神話は架空のもので、古代ギリシャ人もプラトンも神話も神々も信じておらず、本当は古代ギリシャ人もプラトンもひとつなる神を信じていた、としているくだり。まあ、その主張はいいとしても、その理由に違和感を覚える。著者は、(ホメロスの「イリアス」にあるように)神話に出てくる神々は人間より下品に描かれており、下品な描き方をされていること自体、宗教的信仰の対象ではなかったことを表しているというんだ。うーむ、神々が快楽的で下品であったとしても、信仰の対象にならないとは限らないのではないかなあ。しかも著者は、古代ギリシャには聖典もない、それをもってしても信仰があったとは言えない、というんだ。キリスト教のような啓典宗教だけが宗教ではないと思うんだけど。