小説 「三四郎」  夏目漱石

三四郎 (新潮文庫)三四郎 (新潮文庫)
(1948/10)
夏目 漱石

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評価★★★★★

 久しぶりに漱石でも読んでみようと駅の書店で手に取った。

 熊本の高等学校を出て東京の大学に入学した主人公、小川三四郎と周囲の女性らが織りなす青春小説。彼は、東京に向かう汽車の中で出会った女性の据え膳も食わず「余っ程度胸のない人ね」と喝破されるほど気弱。田舎者の典型として、同じ大学に通うモダンで自由奔放な女学生に恋心を抱いてしまうが、漱石の小説って、こうした一見愚鈍にも思える無垢でフラジャイルな男の人物造形がすこぶる的確で、そこに自由奔放で活発な女を組み合わせてくるから分かりやすい。今では単純な組み合わせだけど、やっぱり惹き込まれる。
 
 読んでいると、ワタクシが18歳、郷里を出て大学に入ったばかりの頃を思いだす。大学のあった新潟も、郷里の山形とは明らかに違っていた。自分の車を颯爽と乗りまわす同輩を見てカッコいいと思い、サークルの後にクラブ(当時はディスコw)に向かう先輩がなぜかカッティングエッジな人間に見えていたw。そして、大学の食堂の、常に決まった一角を占めている、派手さと美しさを同居させた肉感的な女性たち。まさにボルプチュアスw。それらすべてが華やかで、先端で、かつ妖艶に見える新世界。本書の主人公、三四郎のように、ワタシは自分の「お里」の程を分かっているため、その新世界に飛び込んでいくことに不安を抱いてはいたが、本当は飛び込みたくて仕方がなかったし、実際飛び込んでいった。気後れがバレないように虚勢を張りながらw。ああ、懐かしい。