ギリシャ喜劇 「女の平和」  アリストファネス著

女の平和 (岩波文庫 赤 108-7)

評価★★★

 先日、ソポクレスのギリシャ悲劇にして古典中の古典、「オイディプス王」を読んだので、今度は喜劇にしようと思って、この本を手に取った。本作品は、古代ギリシャアリストファネスの喜劇。別の喜劇「雲」等でソクラテスら哲学者たちを笑った彼は、今度は、戦争に明け暮れる男たちを風刺することとした。
 
 何年にもわたる戦争。男どもが戦いに明け暮れている結果、アテナイには女性と老人や子供しかいない。可愛そうなのは夫に残された妻たちで、2度と夫の顔を見ることがなかったり、なんとか帰ってきてもとうに自分の女としての盛りは過ぎてしまっている。そこで一人の美しい妻が立ちあがり、仲間をあおってクーデターを起こす。男たちを戦争にやらないため、平和を築く必要があるとしたんだ。ただ、なんと、その手段は、男たちに対し、女たちみんなで性的ボイコットをするっていう話。セクシーなカッコで男を誘惑するも、肝心のところで逃げ、男を生殺し状態にする。体が欲しければスパルタと和睦しなさい、ってねw。作戦決行の途中、クーデターを聴きつけた老人の男たちが邪魔しにやってくる。巻末の解説によれば、彼らは現代で言うところの既得権益者で、民主政治を利用して何かにつけて文句ばかり言ってくる衆愚政治の象徴、デマゴギー的存在らしい。最後は、男恋しさから脱落する妻たちも出たが、セックスボイコットはまんまと成功し、和睦することとなる。
 
 現在、こんな猥雑な劇、上演してるとこあんだろかって思ったが、ネットで検索したらちゃんとあった。巻末の解説には、登場する男たちはみんなチンコケースをつけることになっていて、時を追うごとに欲望の高まりに合わせ、そのケースがどんどん大きくなるっていくって書いてあったが、それもやってんだろうか?  
 
 さて問題は、読みにくいこと。なにせ、卑猥な言葉をそのまま率直に出すのは憚れるからだろう、メタファーって言ったらいいのかな、意味を2重に持つ言葉やほのめかしの表現を多用している。ただ、それらがあまりに多すぎて、いちいち巻末の注釈を頼らないと読み進められない。逆にこっちが先読みしてしまい、それが実は猥褻な意味などなかったなんて肩透かしも多かったw。なんだか、ちーともドラマティックじゃないのね。本書を面白いっていう人はよほど、当時のエロと感性がすこぶる一致する人なんだろうと思う。

 そういやアリストファネスといえば、プラトンのいわばハードボイルド小説w、「饗宴」で、すこぶるロマンティックな説話をしていたのを思いだす。「人間ってのはもともと男女が一つにくっついた球体のごときアンドロギュノス(両性具有)で、それがゼウスの仕業で半球になって離れ離れになってしまったから、互いに欠けたものを求めあって恋をする」っていうファンタジーアリストファネスは口は悪いですが、感性にはすこぶる優れてますね。