映画 「PARIS(パリ)」      セドリック・クラピッシュ監督作

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評価★★

 同じ監督の手になる「スパニッシュアパートメント」「ロシアンドールズ」で同じく主人公を演じたロマン・デュリスが、今回も主人公を演じている。彼はパリ社交界の狭き門、ムーランルージュのダンサーで、これから活躍しようと思っていた矢先に心臓病を発病。医師の宣告は余命数カ月、延命には心臓移植しかないが、ドナーがいるかどうか分からない。悲嘆にくれて毎日窓外の人々や風景を眺めるだけの生活になってしまう。彼を励ます姉(なんとジュリエット・ビノシュ! 懐かしいw)は3児のシングルマザー、育児と仕事に追われて恋なんてとっくに忘れ、枯れかかっている。物語は彼ら2人の内的葛藤が中心だが、その周辺に絡んでいる脇役たちの物語も独自に湧き出しはじめ、それぞれのストーリーが重奏的に同時進行していく。しかも、舞台がパリという独特の雰囲気を持つ都市だから、いずれのストーリーも徐々に美しく見えてくる。とはいってもゴダールらのフランス映画にありがちな美的センスを鼻にかけたスノッブさはなく、あくまで庶民的だ。

 また、主人公のダンサーが抱える悩みは火急で重いはずだが、物語は軽妙でコメディタッチで心安い。それはたぶん監督の前作、前々作と同じであり、クスクス笑えて面白い。安心して見てられる。ただし、最後が何とも深みのない、ありきたりなものとなって不完全燃焼となった。たとえていえば、好みの服を買ったら、サイズが微妙に合わない感じ。まぁ着れるからいいや、みたいな(笑)。あるいは、よくできた発泡酒低脂肪乳。美味しいし、カロリー低めで現代的、みんな満足しているから十分なんだけど、もっと喉に絡みつくような濃厚さがあってもいいw。

 もしかすると監督は、ウッディ・アレンのようなコスモポリタニズム賛美者で、同時に多様な文化が集う都会ではつきものの開放感と、その陰にある孤独感、といった、ベタな悲喜劇が好きなんだろうな。幸い、ウッディ・アレンよりはオシャレでセンスがいいけど、深みが足りない。でも、映画館はメチャクチャ混んでいたw。