光文社新書 「すべての経済はバブルに通じる」 小幡績 著

すべての経済はバブルに通じる (光文社新書 363) (光文社新書)すべての経済はバブルに通じる (光文社新書 363) (光文社新書)
(2008/08/12)
小幡績

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評価★★★★

 新書だからといって侮るなかれ。東大経済学部を首席卒業し、大蔵官僚を経て学者となった若き秀才が書いた、今回の金融不況への理解が進む良書。といっても、金融不況への解説だけではない。資本主義経済の本質にまで話を広げ、「それはすなわちネズミ講である」と気持ちよく喝破する歯切れの良さもある。

 ネズミ講は次に入会してくる人の出資金によって拡大する。資本主義も同じで人口や新たな消費圏が増えないと経済拡大していかない。いや、一人一人の生産性が向上すればいいと、アダム・スミスが分業による生産性向上を唱え、そのほか技術革新や教育投資も生産性向上と、その結果の資本蓄積(経済拡大)に寄与するとしたが、そうしてできた商品はやっぱり誰かに買ってもらわないとならない。新たに消費してくれる人口が増えること以上のメリットなど実際にはないんだ。そりゃそうだよね。
 でも、フロンティアはいずれなくなる。一方、すると、それまで蓄積された資本は、生産への投資だけでは足らず、金融資本に変化して自らカネを自己増殖的に膨らませていくこととなる。もちろん、それにも限界があって、みんながもう増えないと思ったとき、そのときが金融破綻なんだって。

 サブプライムローン市場の拡大もその一端。住宅ローン債権のままでは誰も買わない。だって、住宅の質から立地条件、近隣住民など要素が多くて複雑だもん。でも、リスクの度合いによって切り分けし、証券化すると買い手がつく。証券商品って単純だ、過去の貸し倒れ実績に基づいてリスクとリターンを定型化しているだけ。100個に一個は危ないよ〜、そんな感じ。そこに、価格の上昇局面でしか判断したことのない(つまりバブル崩壊を経験していない)格付け会社がトリプルAとか付けてくれる。金余りの世の中、トリプルAなんて、ほっといてもバカ売れするし、価格はうなぎ登り。いつのまにか、証券から得られるキャッシュフローなんてどうでもよくなって、転売したらいくらで売れるか、そこに焦点が向かい出す。
 ローンの借り手は持ってる住宅の価格が上昇しているから、優遇低金利の期限が来たらローンを新規に組み換えればいい。しかも、住宅価格上昇でより高額なローンが組める。高額なローンを組んだ方が転売した時の利益の絶対額が大きくなるからみんな高額ローンを組む。手数料稼ぎにご執心のローン仲介者も当然、儲けの大きい高額ローンを薦める。ローンの貸し手にとっても、担保に押さえている住宅価格が上昇しているから問題はない。最悪の時は担保物件を売ればいい。つまり、みんなノーリスク。結果どんどん自己増殖的に市場が拡大していく良い例だ。

 著者は言う。投資機会の減少と金融資本の増大は後者に自己増殖を強いる。その結果、世界にはカネが余っている。先進国が成熟すれば、新興国の小さな市場を潰し、株がダメになりゃ原油だ、金だ、穀物だ、何でもいい、上昇しているところを狙い撃ちする。上昇してさえいれば素人でも儲かるから、みんな本当はバブルが大好きだ。畢竟、すべての経済はバブルに向かう。バブルん時はみんなバルブだと分かっている。いつ弾けるかが分からないだけ。私も著者の考えにまったく同感である。
 
佐伯啓思の「欲望の資本主義」を思いだした。これから規制強化の方向に向かうだろうけど、そんなの一時しのぎ。世界のどこかで再びバブルは起こる。