ノンフィクション 「銃・病原菌・鉄」 ジャレンド・ダイアモンド著

銃・病原菌・鉄〈下巻〉―1万3000年にわたる人類史の謎銃・病原菌・鉄〈下巻〉―1万3000年にわたる人類史の謎
(2000/09)
ジャレド ダイアモンド

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評価★★★★★

 米国の地理学者、ジャレド・ディアモンドが書いた、25年の月日と精力をかけて健筆ふるった人類学書。ピューリツァー賞受賞作。誇張すれば、フレイザーの「金枝篇」に民族学者の柳田國男言語学者大野晋の本を足して3で割ったような感じ。上下2巻で、とっても長いが、どこを読んでも知的好奇心をくすぐる刺激的な本で、エンターテイメント性もある。
  
  「白人はたくさんの文明品をつくってニューギニアに持ち込んだが、私たちニューギニア人には自分達のものといえるものがほとんどない。いったい何故なんだ?」ーー著者は25年前、学術調査に訪れたニューギニアで、仲良くなった現地の政治家に問われて、答えられなかった、質問を変えよう。「なぜ1532年、スペインの将軍ピサロはたった168人の小勢で数万の兵士を誇るインカ帝国を打ち破ったのか。なぜ、支配したのが渡ってきたヨーロッパ人で、その逆にはならなかったのか?」。つまり、こんにち民族間や国家間において、かくも文明格差が開いた背景にはいったい何があったのか。

 もちろん著者は、「人種には優劣がある。そもそも白人は生まれながらにして優秀なんだ」という、ヒトラーナチスのアーリア主義やアングロ・サクソン史観のような主張には与しない。「暑い気候で育った人種よりも、寒い気候で耐えた人種の方が、文明を進歩させるものだ」といった、井戸端会議的な一般論も否定する。では著者の結論は何か。それは「環境の違いだ」と言う。当然といえば、当然だけど。
 
 
 ?類人猿から枝分かれし5万年前から文化的大躍進を遂げ始めた人類は、オーストラリア大陸に船で渡り、アメリカ大陸には陸続きのベーリング海峡から渡って最終的にパタゴニアに到達したが、それら移動中に狩猟を重ねた結果、大型陸上動物の多くを絶滅に追いやった。結果、オーストラリアでは早くに大型哺乳類の多くが姿を消し、アメリカ大陸にでは七面鳥かラマくらいしかいなくなった。

 ?人類がその種族を増加させる上で、動物に頼る狩猟生活より、植物栽培による農耕生活の方が安定的だ。加えて、農耕は余剰食料を生みやすい。余剰は富を生み、それを管理するものを必要となる。管理は、文字や集権化された組織をつくる。文字は知識を蓄積させ、知識の蓄積は技術の発明を促す。組織は社会を強固にする。
 かといって、農耕に転換するには、周囲に栽培化しうる植物がなくてはならない。でも、栽培化に適した植物は、動物同様、気候や地域ごとに偏在する。結果、世界広しと言えども、独自に農耕を始めた地域は中東や中国など、ほんの数個所。あとはその模倣である。

 ?定住農耕社会に必要な動植物は、野性の動植物から人為的に選び抜かれる。それが時間を経て遺伝子を変異させた結果、今の栽培種や家畜種が出来上がった(いわば遺伝子改良物)。ただ、前述のとおり、オーストラリアやアメリカ大陸には家畜に適した動物が少なく、栽培化しうる植物もユーラシア大陸ほど多くなかった。アフリカには大型哺乳類がたくさんいたが、象は大きすぎてエサ代がハンパじゃないし、ゴリラは成長に時間がかかってアホくさい。サイやカバは凶暴で、シマウマも気性が荒い。チーターは衆人監視でのセックスをいやがって繁殖が困難だ。それに比べてユーラシア大陸では、序列性のある群れを作る馬や羊、肉や乳にもなって大人しい牛がたくさんいた。そうした家畜からは(動物由来の)病原菌をもらうこととなるが、次第に免疫もできて抵抗力がそなわるメリットもある。家畜のいない民族は、抵抗力も持ちえない。

  もともと人類の歴史って、700万年前に「エデンの園」アフリカの西部熱帯雨林で類人猿から枝分かれし、各所に移動・拡散し、その一部がベーリング陸橋を超えて南米パタゴニアまで達したという「グレートジャーニー」を言うまでもなく、壮大な叙事詩のようで心躍るよね。そういや、ライオンバーガーはおいしいらしいよ。