映画 「その土曜日、7時58分」   シドニー・ルメット監督作

土曜日

評価★★

 「カポーティ」のシドニー・ルメット監督作。同作で主人公のトルーマン・カポーティ役を演じたフィリップ・シーモア・ホフマンが今回も主役、強盗を実行した兄弟の兄役を演じている。カポーティで見せた威風そのまま、今回も他を圧倒する存在感で怪演している。弟役には「リアリティ・バイツ」のイーサンホーク、リアリティ・バイツでは現実に刃向かって生きている才気あふれる青年役だったが、今回はオドオドしたダメ男。ちょっと残念だが、実はこうした気弱な役柄の方が自然なのかも知れない。あと、注目は兄嫁役のマリサ・トメイかな。かつてキュートでセクシーだったアイドルも今や全裸で乳房を露にするほど逞しくなっていた。

 物語は、兄が弟を誘い、実の両親がオーナーを務める郊外の宝石店への強盗を計画。両親は年老いて店に立つことはない。両親の店だから勝手も知っている。店は宝石が盗まれても、保険で補償されるから実害はない。盗んだ宝石は闇で売りさばけばいい。計画は完璧。後はその通り実行すればいい。が、しかし、気弱な弟は計画を少しだけ勝手に修整してしまい、加えて偶然の過ちか、店に立っていたのは母親だった。計画は失敗、兄弟は徐々に追い詰められていく。

 この映画の面白みは、「パルプフィクション」と同様、時系列のストーリー展開を排除し、各シーンをいったんバラバラにした上で、シーン毎の関連性の強さをベースに再結合・構成したことにある。時系列でないから観る者の頭の中は多少なり混乱するし、その混乱は不安感をいざなって緊張感を生み、スリリングな展開が楽しめる。加えて、シーモアを中心に俳優達にみな知的な重厚感があるから、作品はなんともなしに高尚な印象となる。ただ、時系列を排除した手法にはもはや新鮮さはないのだろう、時間を追う毎に緊張感がなくなっていった。何より後半、犯行の動機の一つに描かれていた、親子関係の脆弱さというか父と兄の愛憎相半ばした感情の描き方が貧弱で、名優たちの存在感に比してバランスが取れてない様に思えた。説得力が薄く尻すぼみ。時系列展開を排したテクニカルな脚本と圧巻のキャスティングに満足してしまったわけではないだろうけど、もったいない。