経済書 「大恐慌を見た経済学者11人はどう生きたか」 中央経済社

大恐慌を見た経済学者11人はどう生きたか大恐慌を見た経済学者11人はどう生きたか
(2005/01)
R.E. パーカー

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評価★★★★

 内容は経済学、小難しくて頭痛くなるから買ってはいても読まずにツンドク状態だった本。でも、先月半ばからずっと「恐慌」に関する経済書というか、ビジネス書を2冊立て続けに読んでいたことで、これは読む最後のチャンスと思って読み進めた。
 
 著者は、アメリカの大学で恐慌を研究している経済学者。本書は、その著者が現存(02年当時)する経済学の巨匠、サムエルソンとかフリードマンとか、トービンら合計11人に一人一人インタビューしたもの。
 インタビューでは、?1929年に始まった世界恐慌が、なぜ起きたのか、?そして再び大恐慌は起こりうるのか――、そういったことを全員に問いかけている。インタビューだから、巨匠の学術論文等に比べて遥かに読みやすい。それでも理解できないところが大半だけどw。時に巨匠たちといえども、感情の抑制が利かず人間性をさらけ出すことがあって、結構面白い。

 11人のインタビューをわたしなりにまとめると、恐慌の前にはバブルというか、急激な景気拡大があるものだ。高度な成長が長く続き、家計や個人企業といった小さな借り手が自動車や冷蔵庫など耐久消費財をバンバン買い始め、不動産価格や商品相場が急上昇する。銀行はそれを担保にますます貸し出しを増やし、個人はますます借金増額してモノを買う。結果、その国の経済は自己増殖的に伸びていく。それが突然、1929年弾けてしまったんだ。
 株式市場が暴落し、株式上昇を担保に金が借りられなくなったブローカーたちが相次ぎ倒産し、それが一部の金融機関やその他の産業界に波及する。そして、人々の信用収縮に繋がり始める。つまり、景気が後退し始める。信用の収縮がすべての根源。そもそも紙幣、つまりお金もあるいは商品も、世に存在するものすべてに、絶対的な価値などない。すべては相対的価値、ケインズで言う美人投票的な「信用の醸成」によって成り立っている。価格が下がれば、当然、経済はシュリンクする。ただし、人々は何事もいずれ底が来ると信じているから、実際は株も不動産も「底」(これも幻想)の辺りで踏みとどまり、一時的に回復することもある。でも、すでに人々は最初の株式暴落で疑心暗鬼になってるから、何かがあれば「今が底」という人間のガラスの自信はもろくも崩れる。物事の信用度は更に収縮する。どんどん落ちていく状態、それが大恐慌、というわけだ。
 そして、大恐慌は最大の財政政策である戦争、つまり第二次世界大戦への参戦、特に日米戦争によって終わったと、11人の学者全員が語っている。
 
 閑話休題。いま世界は恐慌に向かいつつあるのか。向かっていると断言する副島隆彦(リーマンブラザーズの破綻を当てやがったw)や松藤民輔の本を、流行まかせに読んだ限りでは、恐慌に向かっているとしか思えない。ただ、本書を読むと、彼らは恐慌、恐慌と煽り過ぎではないかとも思える。サムエルソンら世界恐慌を経験した経済学者らの多くが、再び大恐慌は起きないだろうといっているからだ。現在の経済システムから考えて、小さな恐慌は起こっても、1930年代のような大恐慌は起きないという。ただし、フリードマンは違った形で起こりうると言っている。うーん、どうなんだろ。金もないけど、金でも買っておくべきかしらw。