小説 「穴」  ルイス・サッカー著

穴  HOLES穴 HOLES
(2006/12/15)
ルイス・ サッカー幸田 敦子

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★★

 多くの小説家や翻訳者らが面白いと評価している本。わたくし知らなかったけど、日本に登場した1998年頃はかなりの注目を浴び、実際に店頭で山積み展開され、大きく売れた本だったんだってね。
 
 盗んでもいないのに盗みを働いたカドで少年更正施設に送りこまれた主人公、スタンリーが、他の少年達と一緒に、焼けるような太陽がジリジリ地面を照り付ける炎天下の下、毎日穴を掘りつづけるという奇妙な話。穴堀りは人格形成のため必要なことらしく、みんな更正期間が終わるまで日々懸命に掘りつづけている。スタンリーは無実の罪ながら、先祖代々不運を背負ってきたからんだからしょうがないと諦め、掘り続ける。そのうち仲間意識も生まれ、今まであまり感じる機会の無かった友情も覚え始めるが、仲間となった少年達は自分を助けてくれる一方で、自分も大事、時には足をひっぱりもする。それよりも、施設の所長やスタッフの大人達がどうも胡散臭い。純粋に更正という目的のため穴堀りをやらせている感じではないんだ。そのうち、いっしょに穴を掘っていた仲間の中で、いちばん仲がよくなってきた一人の少年、ゼロがスタッフの一人にいじめられてしまう。傷ついた彼はそのスタッフに暴力的に反撃し、そのまま施設から出ていってしまう。でも、見渡せる範囲には何もない陸の孤島、水一滴望めそうにない田舎。スタンリーはゼロを追って施設を出て行く。。。
 
  最後は予想もしないハッピーエンドで、ホッと安心感を覚える。素晴らしいのは、この物語、パズルのように構成が精緻なこと。物語の伏線となる、複数の個別ストーリーがそれぞれ別に展開・進行し、少しずつ絡み合って、最後にはすべてピタリとひとつの枠に収まっていく。まるで、大きな河川のように、一つ一つのシーン、ストーリーが複数並列して流れ、下流部で結合した瞬間、たゆとうと流るる深く大きな川、すなわち芳醇な物語となっているんだ。
 
 ただ、個人的には、「理不尽な背景によって弱者という立場に追いやられた人間へのエール」、「読むと元気になる本」という前評判ほど、いたく感動したわけではない。強いて難点をあげつらえば、児童文学の割には死や暴力の理由があいまいで、平和な日本で育った私に少し違和を覚える。しかも最後、もっと主人公は、もっともっと自分の力、独力でハッピーエンドを迎え入れるべきに感じてしまった。だから、中途半端なのよ。期待しすぎたのかなw。