小説「武器よ さらば」 

武器よさらば(下) (光文社古典新訳文庫 Aヘ 1-2)武器よさらば(下) (光文社古典新訳文庫 Aヘ 1-2)
(2007/08)
ヘミングウェイ

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評価★★★★

 本書は、第一次世界大戦の只中、イタリア軍に志願兵として参加したアメリカ人の青年ヘンリーが、北イタリア国境付近の戦線で出会ったイギリス人看護婦と恋に落ちる。始めヘンリーにとっては軽いゲームのつもりだった付き合いだが、脚に重傷を負い、治療のために送り届けられたミラノのホテルで再会し、愛を燃え上がらせる。脚の傷が癒え、いったんは戦線に復帰するも、戦況悪化でイタリア軍は敗走に追い込まれ、ヘンリーは命からがら彼女のいる北イタリアの保養地にたどり着く。敗走の責任を問うイタリアの憲兵から逃げるべく彼女と連れてスイスに脱出。お腹に子を宿し出産間近の彼女と結婚を誓う。

 結末は、とってもセンチメンタルだ。切なくて悲しくて、キュンと胸が締め付けられてくる。一方、よけいな修飾語を拝した文章は思った以上に軽快で読みやすく(軽過ぎると思える金原瑞人の新訳のせいもあるだろう)、でも同時に、艶っぽく、そして、スリリングな緊迫感もあって、読んでいて心地よい。小説家の角田光代氏はヘミングウェイの作品を評して、「命のきらめき、そして幸せがいつまでも続かない緊張感がいい」と書いていたが、言い得て妙だと膝を打った。たとえは悪いが、チャンドラーの「長いお別れ」やハメットの「マルタの鷹」のようなハードボイルド小説にも通じる、人生のリアリズムとそれに抗えようとする人間の感情。人はが悲哀に満ち満ちていることを十分に理解し許容し、でも可能な限り抵抗する。もっといえばサリンジャーにも似ているかな。これまで、ヘミングウェイといえば、キザっぽい過剰な男っぽさ、不必要なマッチョさが気に入らなくて、今まで読んでこなかったけど、私も年をとったのだろうか、このセンチメンタルさ、大好きです。