戯曲「欲望という名の電車に乗って」(テネシー・ウイリアムズ著)

欲望という名の電車欲望という名の電車
(2005/08)
テネシー ウィリアムズ

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評価★★

 1911年米国生まれの劇作家、テネシー・ウイリアムズの代表作。1947年刊行。
これまで読んだことがなくて、もう7年ほど前だろうか、作品の舞台であるニューオリンズに旅行した際も読まなかった(←それなのにチャッカリ、著者の旧家には訪ねてきたw)。たぶん、ミュージカルがあまり好きではなく、演劇の台本を読んでも面白いと思ったことが少ないことに加え、なんとなく品のない、ジメジメした場末のスナックみたいな風体の物語ではないかという先入観が災いしてたのかも知れない。
 
 「欲望」という電車に乗って、「墓場」と言う電車(ストリートカー)に乗り換えて、「極楽」という駅で降りた主人公、ブランチ。当時のニューオリンズには、こんな名前の電車が実際にあったというから気色悪いがw、彼女は米国南部の裕福な地主一家に生まれた28歳のやもめ。若いときは美しかったが、今では年を経てやつれ、美貌は大きく損なわれていることを知りつつも、それを肯定できない。過去の思い出とプライドに生きる、ある意味は純朴な女性。少女時代、詩を愛する美しき少年と恋愛結婚したが、その夫はその後に同性愛に転じ、離婚。ショックで毎晩行きずりの男を捕まえては寂しさを紛らわして夜をやり過ごし、巨大な遺産を受け取ると信じていた南部の大農園は両親の死とともに残された借金で失い、愛にもお金にも裏切られる。挙句の果ては、高校の英語教師としての仕事も、17歳の生徒との淫行がばれて取り上げられる。そうして仕方なく、妹ステラを頼りに、ニューオリンズまでやってきたのだ。ただ、ニューオリンズは、没落していく白人地主を後目に、若き黒人と移民の労働者階級が台頭する都市、しかも妹の住むのは下町フレンチクォーター(今では歴史感ただよう洒落た地区になってるけど)。大農園で裕福に育てられたブランチには貧乏じみた「格下の」町で、かわいい妹がそんな町に住んでいること自体、耐えがたくい。しかも、妹の夫は、妹には相応しいとは思えない野卑で粗暴な男で、ブランチとは水と油、扱いはひどくぞんざいだ。そのうち、スタンリーの友人に恋するも、ブランチの過去の浮気や淫行がバレてご破産となる。ついにブランチは精神に異常をきたし、精神科医に連れていかれる。
 
 とまあ、身を持ち崩した女のなれの果てを描いた物語である。米国のミュージカルに珍しくハッピーエンドではない。大規模プランテーションの時代には裕福だった南部地主階級も、工業化がもたらしら時代の変遷には勝てず力を失い、一方で、移民など都市に流入してきた労働者が新しき時代の担い手として逞しく台頭してくる。そうした時代の過渡期には必ず、置いてけぼりをくらう者の悲哀があり、そこに人々は共感するのだろう。でも、正直、私はあまり感情移入できなかった。まして、あとがきに訳者が書いているような、琴線を感受することなど、けっしてなかった。この本には高い普遍性も、哲学性も感じ得ない。他のレビューにはアメリカの影の部分とか、資本主義の現実が読み取れるなどと書いてあったが、そうしたジャーナリスティックな趣もない。単に、一つの時代の物語に過ぎないんじゃないかな。って、巨匠の代表作にイチャモンつける私は何様だって話ですがw。