エッセイ「とらちゃん的日常」 中島らも著

とらちゃん的日常 (文春文庫)とらちゃん的日常 (文春文庫)
(2004/07)
中島 らも

商品詳細を見る

評価★★★

 中島らもが初めて買った猫、それはそれはカワイイ愛猫「とらちゃん」について、いつもの調子で語ったエッセイ。

 著者は、とても凡人とは思えない想像力をもち、その陰でとても論理だった構成力を持つ人で、同時に酒や麻薬に溺れながら気ままに生きていた人だけど、やっぱり小説やエッセイ、芝居の台本などの文章を創作するためには日々苦悩しているわけだ。考え悩めど、なかなか思うように創作が進まないのが通常で、日常はささくれだったものである。そんな、ささくれだった日も事務所に戻れば途端に一変。著者を待つ可愛い愛猫「とらちゃん」が、自由で勝手で人の気も知らない愛猫「とらちゃん」が、食べ物を求めて擦り寄ってくる愛猫「とらちゃん」が、著者の心に潤いを与え、幸せな笑顔をもたらしてくれる。ワタシもいま猫が欲しくて仕方がない、だって愛猫にマジックマッシュルームを与えてみたいものw。

 「来し方の悪行を考えると俺は猫を飼うに値しない。猫を飼うことで一種のみそぎをしているのではないか。降り積もった黒い雪を猫の高貴さが洗い清めてくれる、そんな気がするんだ」と、人間だけじゃなくて猫に対してまでも鬱屈した感情を露呈するから、著者は面白い。もちろん、猫を可愛がる著者の姿は一般の人とけっして変わらないと思うし、内田百「ノラや」(中公文庫)を例に挙げるまでもなく、愛猫について書いた本って世の中にたくさんあるけど、それでも著者は独特だ。ちょっとした会話、ちょっとした日常の風景の中から世の中の本質、人間の本質を刈り取り、著者独特の言葉遣いでしなやかに表現する。普通はこんな猫エッセイ、感心して読むつもりなどなくて気休めに読むもので、実際そのつもりで読んだはずだけど、結局、感心してしまった。