小説「推定無罪」  スコット・トゥーロー  (2008.5.12)

推定無罪〈下〉 (文春文庫)推定無罪〈下〉 (文春文庫)
(1991/02)
上田 公子スコット・トゥロー

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評価★★★★

 1987年刊行で、ハリソン・フォード主演映画の原作。米国でいまも弁護士として働く著者が、検事補だった頃に書いた法廷ミステリ。当然、法律家として法廷の事情に詳しいが、もともと大学院で文芸創作を学び、その後も学生に創作を教えていた経歴があるだけに文章は手馴れていて読みやすい。ってか、筆力は並みの作家を遥かに超えている。読んでいくうちにアっという間にグイグイ惹きこまれてしまい、上下2冊で長いけど、徹夜しても読み進めたくなる。
 米国中部の中堅都市に住む有能な首席検事補が、上司が再選を目指し出馬した地方検事選挙の只中に、同僚の女性検事補の殺人事件を担当する。ただ、捜査に乗りだした検事補は、実は被害者が殺される前までその被害者と愛人関係にあったため、徐々に殺人の嫌疑が自分に向かい始める。選挙で上司が敗れ、新しい政治的圧力が働きたから尚更だ。そこで彼は有能弁護士を雇い、自らの無実を立証していくというストーリー。
 展開は2転3転し、結末は予想外のものであった。人間の欲望の大きさに驚き、アメリカ社会でタフに生きていくことがなんと苦しく面倒くさいものかよく分かる。読み出したらとまらない、徹夜必至のミステリ。エンターテイメントとしては極上と言っていい。