映画「つぐない」  (2008.4.17)

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評価★★★★

 07年イギリス映画。オースティン原作の「プライドと偏見」を撮ったジョー・ライト監督作。その作品でヒロインを演じた女優キーラ・ナイトレイが、当映画でも主役と思って観たら、そうではなく、主役はその妹役の少女であった。姉キーラは準主役で、その演技は今回も凛としてて、その挙措動作一つ一つに気品を感じさせる。肉感のない華奢さと勝ち気そうな佇まいのせいか、濡れ場シーンでも決して淫靡さが表に出ず育ちの良さを感じる。わたしの好きなタイプの女優かなw。
 
 舞台はイギリス、軍靴の靴音がこだまし始めた1935年。高級官僚を父にもち、田舎の素封家として裕福に暮らすブライオニーは、小説を書くことを趣味とする多感かつ純粋無垢な少女。異性にも興味を持ち始め、姉セシーリアが、邸宅に住む使用人の息子を家柄の違いを理由に本心とは裏腹に冷淡に接する姿を怪訝そうに見ている。使用人の息子ロビーは、姉妹の父から資金を得てセシーリアと同じ大学を卒業、医者を目指す優秀で快活な若者だ。ある日、ロビーはセシーリアへの思いの丈を有りのまま綴った手紙を彼女に届けてくれるようブライオニーに託すが、託されたブライオニーはその手紙を読んでしまい、その直裁的で卑猥な言葉に衝撃を受ける。一方、ロビーの熱情を知ったセシーリアは、それまで押し留めていた気持ちを解放し、ロビーを受け入れ体を預け愛し合う。ただ、なんと、その瞬間さえもブライオニーは目撃、大きく動揺する。その日の夜、一つの事件が発生。家出した子供たちを捜しているドサクサのうちに、もう一人別の従姉妹の少女が男に暴行を受けていたのだ。ブライオニーはその犯人の顔を見ていたが、警察には嘘の証言をする。暴行していたのはロビーだと。ブライオニーはその無垢で潔癖な価値観から、姉を奪ったロビーを卑下していたのだ。ロビーは逮捕され、投獄される。
 
4年後。ロビーは戦地にいた。従軍を条件に早期出所が認められ、対ドイツ陸軍との攻防激しい北フランスで、食料も水も尽き生死の境目を彷徨っていた。その数カ月前、同じく田舎を離れて看護士として働いていたセシーリアと再会を果たし、戦争から帰ったら一緒に旅行しようと約束し、その約束がロビーの命脈を支えていた。一方、ブライオリーも田舎を離れて準看護士となっていた。彼女は一つの嘘が他人の人生をこれほど大きく変えてしまったことを悔いていた。まるで禁断の果実を食べ原罪を背負ったアダムとイブ、二人をそそのかした蛇のよう。そういや、映画の原題は「atonement」(贖罪)だったw。
 
 結末は衝撃的だった。まさかこんな風な物語だとは思いもしなかった。主人公のやり場のない悲しさ、背負い続けてきた苦しみの大きさに感情移入し、正直、心が揺すぶられてしまった。実はわたしにも謝りたくても謝れない人がいる。謝りたくても謝れない。映画を観た後で原作を読みたくなったのはこれで2度目である。クライマックスシーンを盛り上げるタイプライターの音がすばらしい。