映画「4ケ月、3週と2日」  (2008.4.5)

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評価★★★

 パっとしない俳優ばかりの東欧映画で、若い女性の中絶という重いテーマにもかかわらず、映画館に集う人の数は多く、レビューの評価もかなり高かった。07年カンヌ国際映画祭パルムドール(最高賞)受賞作。ずっと気になっていた。
 
 物語は1987年。2年後の1989年、民衆による革命で倒れることとなるチャウシェスク大統領の長期政権の下、不自由さと経済的欠乏にあえぐチェコを舞台としている。
 大学の工学科で学ぶオティリアは、寮のルームメイト、ガビツアと何だかせわしなく動き回っている。荷物をスーツケースに詰め、ホテルを予約し、顔も知らない医者に会いに行く。すべてはガビツアのためにしていることだが、オティリアは何のためにそうしてるのか、観るものに情報は与えられない。ガビツアに頼まれた医者に会いに行くと、医者はボロボロの車の中で待っていて、汚らわしく胡散臭い。しかも何だか不機嫌だ。オティリアはその医者を連れ、ホテルの部屋に入ると、そこにはガビツアが座って待っていた。医者はガビツアの堕胎を手伝ってくれるようである。ただ、チャウシェスク政権は労働力増大のため中絶を法律で禁止しており、しかもチェコは当時、衆人監視の告知制度を持つ社会主義国。もし中絶がバレたら患者も医者もタダでは済まされない。医者は、不法行為をお願いするガビツアの後ろめたさや作業の不手際を最初から見透かしたかのように、「なんで自分から会いに来ないんだ」「妊娠してから4カ月以上経っているのに、なぜ2カ月だと嘘をついた」と責め上げていく。挙句は、手術の対価となる報酬が少ないと文句をつけて、二人の体をも要求する。ガビツアは、悪気はないのだが、常に曖昧で無責任、更には言い訳ばかり、観ているものまでムカムカしてくる。そんな友人のために、なんとオティリアは医者の要求を承諾する。
 
 この映画、豪華なセットもなければ、ジェットコースターのようなハラハラドキドキのストーリー展開があるわけでもない。カメラワークも引きばかりで、シンプルそのものだ。映像に技巧的なものも感じられず、なんと、映画の背景に常にあるはずの音楽すら流れてない。それでも惹きこまれるから、さすがにパルムドール受賞作。ただ、私が女性だったらもっともっとオティリアの内面に感情移入でき、苦悩を共感し、落涙できただろう。