人物評伝「プルタルコス英雄伝」  プルタルコス  (2008.3.30)

プルタルコス英雄伝〈上〉 (ちくま学芸文庫)プルタルコス英雄伝〈上〉 (ちくま学芸文庫)
(1996/08)
プルタルコスPloutarchos

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評価★★★★★

モンテーニュモンテスキュー、ルソー、シェークスピアゲーテ、ナポレオンを筆頭に、多くの歴史的偉人が愛読していたという、古典中の古典。今になってやっと読んだが、ああ長かった(これでも本書は、対比列伝の要約版であるw)。しかも、訳がカッコつけ過ぎで困る。原書の文章自体が放漫乱雑らしいが、それにしても読みにくい。
 
 さておき、著者のプルタルコス、取り上げる英雄達をその偉大なる業績・功績よりも人間性、徳性に重きを置いて評価している。まるで論語を読んでいるかのよう。ただ一方で、それら英雄達の悪行もそのまま書いている。悪行がひど過ぎてもはや英雄とは言えない人物までも取り上げている。その理由は「書物に変化を与えるためでは毛頭なくて、読者を優れた観察者にする」ためで、「いたずらに高潔をてらうのではなく、人間の弱点を在りのまま描いた」らしい。このあたりは日本同様に多神教社会であった古代ギリシャ・ローマの「中庸さ」が色濃く出ている。「功罪相半ばする」「毀誉褒貶ともなう」「清濁併せ呑む」と言った感じかな、日本人も好きだろう。

 それにしても高潔で立派な人徳者の政治家が多いことにびっくりする。キリスト教も仏教も儒教も生まれておらず、宗教的モラルのバックグラウンドのない古代ギリシャ・ローマにおいて、高潔で徳性な政治家が数多く存在していることが不思議でしょうがない。おそらく、古代ギリシャが採用した直接民主主義という政治システムがモラル形成に一定の役割を果たしたのだろう(人徳者でなければ選任されないから)。ただし、直接民主主義は一方で、衆愚政治に陥りやすい。陶片追放(オストラキスモス)のような「悪事への罰ではなしに、威望と権力を引きずり落とすに過ぎない制度」を産んでいる。人間のもつ嫉妬とは実におそろしいものであると今更ながら実感し、人間とは実に利他的精神に乏しい生き物だと改めて恥じ入った。