映画「once ダブリンの街角で」 (2008.3.23)
ONCE ダブリンの街角で デラックス版 (2008/05/23) グレン・ハンサードマルケタ・イルグロヴァ 商品詳細を見る |
評価★★★★
07年アイルランド映画。主演は、ザ・フレイムスのボーカル兼ギタリスト、監督はそのフレイムスで昔ベースを弾いていたアイルランド人。
舞台は、首都ダブリン。主人公の男は、昼間は掃除機専門の修理業を父親と営み、夜になるとストリートに出て穴の開いたボロボロのギターを抱え、自分のつくった曲を弾き語りをしている。ある日、そんな男の前に、一人の女が現れる。男が歌う曲に興味を示し、「あなたの作った曲? 誰のために作ったの?」と立て続けに聞いてくる。
女はチェコ人の移民で、母親と娘の3人でつつましい共同生活をしていた。娘の父親、つまり女の夫はチェコにおり、二人の関係が悪くなったため互いに離れて暮らしている。一方で、ストリートミュージシャンの男も、以前に別れた女性のことを今も引きずっており、彼女のことを思い出しては曲をつくっている。それでも男は徐々に女に惹かれ始め、女もその男の気持ちを感じて揺れ動くが、女は(家族という)抱える荷物が重過ぎて前に踏み出せない。母や娘を含めて幸せになるには、夫とやり直した方がいい。当たり前だ。洋の東西を問わず、女性は常に現実的であり、男は優柔不断で軽い荷物ばかり求めがちである。
エンディングは決してハッピーではないが、一方で、哀しい、心苦しいものでもない。二人はそれぞれに自分の進むべき道を選んだのだ。ほどよくリアルで、ほどよく前向きだと思う。そう思うのは私が男性だからだろうか。女性は「当たり前のことなのに...」と失笑するのだろうか。映画館にいた客は、女性の方がずっと多かった。
あと、この映画、なんといっても背景に流れる音楽がいい。もちろん好き嫌いはあるだろうけど、少なくとも私には、ときに切なく、ときに美しく、ときに力強く、映画に絶妙にマッチしていると感じた。なんていうか、流れる音楽の抑揚が映画のストーリー展開にぴったりとシンクロしている感じだろうか。「観ている」と切なさが胸に込み上げてくるというよりも、「聴いてる」と胸に込み上げてくる。アイルランドのどんよりした空模様も、映画に合っている。07年サンダンス映画祭、ダブリン映画祭観客賞受賞作品。