映画「潜水服は蝶の夢を見る」   (2008.2.24)

潜水服は蝶の夢を見る 特別版【初回限定生産】潜水服は蝶の夢を見る 特別版【初回限定生産】
(2008/07/04)
マチュー・アマルリックエマニュエル・セニエ

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評価★★★★★
 07年カンヌ映画祭監督賞作品。監督は「夜になる前に」「バスキア」のジュリアン・シュナーベル
 
 女性ファッション誌ELLEの編集長としてバリバリ仕事し、プライベートはモテモテで華やかな生活を謳歌していた42歳の男性が、目覚めたらそこは病院のベッドの上にいた。脳梗塞で倒れらしく、頭は普段通りに働くものの、後遺症のせいか左眼以外の体をまったく動かすことができない。口も動かせないから食事もできず、言葉を発することすらできない。その症状、閉じ込められた感覚という意味で「閉じ込め症候群(ロックイン・シンドローム)」というらしいが、頭脳は働くのに言葉を発することができないから実にもどかしい。そうした彼が、唯一動かせる左眼を使い、まばたきを利用してコミュニケーションし、なんと自伝書をつづってしまうという話。またたき一回で「はい」、2回が「いいえ」、コミュニケーションを助けてくれる言語療法士がアルファベットを一つ一つ唱えれば、彼がウインクしてその文字を指し示す。気の遠くなるコミュニケーション作業だ。原題は、フランスでベストセラーになった本“La Scaphandre et le Papillon”(潜水服と蝶)から採られている。潜水服も蝶も彼が病床で見た夢の中に出てきたものだが、確かに、体が思うように動かせないのはまるで重い潜水服を着ているようだし、潜水服を着ていれば他人とのコミュニケーションはまさに隔靴掻痒だ。であっても、脳みそは働くから、創造や妄想は蝶のように空を飛ぶ。

 まあ、障害を抱えた主人公が努力して本を書き上げるという、実話を基にした、おセンチな話。といっても、そこは映像美しき「バスキア」を作った監督のフランス映画、単なる涙頂戴ものではない。左眼一つから覗く狭い視野がそのまま映像風景として切り取られ、観ている我々は主人公と同じ目線でストーリーを追うことになる。加えて、主人公の頭の中の考えがどんどんセリフとして出てくるから主人公と同じ気持ちで映画を観ていくことになる。なにせ彼は一世を風靡した雑誌編集者、頭の中はシニカルなユーモアに溢れているから、おセンチなテーマなのにかかわらず、まったく陰鬱にならない。ってか笑える。そりゃ、全身麻痺して顔がゆがんでいるから見掛けはグロテスクだし、そんなグロい姿を見れば、周囲の人間も必要以上に心配する。でも、そうした周囲よりも主人公の方がずっと冷静だし、逞しい。動かない自分を楽しんですらいる。あと、必見は、彼を助けてくれる周囲の美しい女性達。よくフランス女性は尊大で鼻に付くと言われるが、この映画に出てくる女性はそんなこと微塵も感じない。愛情いっぱいで献身的、向上心に燃えた努力家、なんていうかすごくキュートなんだ。オレも入院したくなったw。