小説「幼年期の終わり」 アーサー・クラーク  (2008.1.26)

幼年期の終わり (光文社古典新訳文庫)幼年期の終わり (光文社古典新訳文庫)
(2007/11/08)
クラーク

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評価★★★★★

 キューブリック映画「2001年宇宙の旅」の原作者で、アシモフハインラインと並び3大SF作家の一人に称される著者の一大傑作。もともと1953年に刊行された小説を1989年に著者が時代に合わせて一部改稿、それをこのたび光文社が現代語訳として再び訳し直したもの。先端科学への持てる知識を最大活用して、予想される未来社会を緻密につむぎだし、説得力のある風景を読者に提示するSF作家は、著者を筆頭にホントすごいと感心する。
 
 21世紀初頭、火星探査のための国家横断プロジェクトが進行している最中、地球上空に突如、巨大な宇宙船が出現する。オーヴァーロード(最高君主)と呼ばれる異星人は、姿を見せることなく人類を指導し始める。人類は自由、そして統治主権を失うも、一方で暴力や犯罪、貧困といった、人類がその歴史上常に抱えてきた問題から解決される。オーヴァーロードのおかげで人類は、平和で理想的な社会を実現することになるんだ。 

 とはいえ、オーヴァーロードはいったい、どんな星に住んで、どんな生活をしているのか? そして、地球を統治する目的は何なのか? 
 秘密を探り出すキッカケを得た一人の男性が首尾良くオーヴァーロードの宇宙船の中に侵入、彼らの住む星に行き、すべての秘密を知ることになる。。。
 
 最後の方は、とても衝撃的だった。これまでの自分がいかに科学的進化論というか、西欧的発展思想というか、フロンティア意識に囚われていたか、胸倉を捕まれて無理やり気付かされたような気分になった。そう、私も含めて多くの人々は、無意識のうちに、人類はずっと進化しつづけるものなんだ、宇宙の神秘もいずれ解明されるものなんだ、そんなふうに思い込んでいるのではないか。
 でもね、地球はどでかい太陽系の中の一惑星であり、太陽系は広大な銀河系の中のとても小さなもでしかないし、銀河系は宇宙の中の極めて小さな天体である。しかも宇宙は膨張し続けているというのだ。そんな宇宙に比べれば、地球なんて余りにも小さい。そして、人類が宇宙を解明するために必要な能力は、果てしなく大きい。我々人類は、無限の宇宙の前には絶望的に無力な存在である。悲しいかな、「人類が宇宙を制する日は来ないんだよ」(著者)。
 
 だから我々人類は、進化の歴史には、始まりがあると同時に終わりもあること、地球も人類もいつか終わりを迎えること、そうした極めて当たり前の事に思いを馳せなければならない。
 
 最後に、ネット上のどっかに書かれていた本書レビューを少し引用し、私見を加えて紹介したい。「SFとは、映画エイリアンのような単なるホラー作品の原作や、あるいは、スタートレックのような冒険活劇といった、単なる空想科学エンターテイメントのジャンルではない。文明批評であったり、現代社会の在り様を写す鏡であったり、人間や生命体、国家・歴史とは何かを哲学的に問いかけてもくる。非常に破壊的な可能性をもった物語のジャンルである。この小説を読めば、そんなSFの持つ力が明確に分かるであろう」。