自伝「反転−闇社会の守護神と呼ばれて」  田中森一  (2007.11.24)

反転―闇社会の守護神と呼ばれて反転―闇社会の守護神と呼ばれて
(2007/06)
田中 森一

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評価★★★★★

 元東京地検特捜部の敏腕検事として数々の実績を残した後、弁護士に転身、バブル時代の成金長者らの顧問を務め、世間には「闇社会の弁護士」とうたわれた著者が、自分の半生を伝記風に語りつつ、検察内部の実態や政治家、財界との関係を赤裸々につづった告発本。
 光進の小谷光浩、末野興産の末野謙一、イ・アイ・イーの高橋治則ら、付きあってきたバブル紳士達の名前はもちろん、その周辺にうごめいていた政治家、安倍晋太郎とか山口敏夫らを実名をあげて書いているから、とっても衝撃的だ。そして、立花隆中森明夫らがこぞって絶賛していた通り、実に面白い。ちょっと長いけどね(400ページ超)。

 読むと、通称・外務省のラスプーチン佐藤優が帯に書いているように、日本の国家中枢にいる人たちが(自己保身と組織保全に凝り固まって、しかも闇社会と暗部で繋がっているために)内部から崩れかけている実態が良く分かる。例えばね、わたくし、検事の仕事にしても、政治の介入など何らかの意図が捜査を邪魔することは在りうると分かっていたつもりだが、「まさかここまで」とは思わなかった。嗚呼、諸悪は必ずしも糾されるわけではないのだ。

 もっと驚くのは、彼の検事になるまでの半生。長崎の貧しい漁師村に育ち、高校は定時制。授業料が払えないので高校の同級生に算盤を教えて払い、参考書を買う金がないので出版社に私は教師だと偽ってサンプル本を送ってもらい勉強する。予備校は校長に手紙を出してタダで学ばせてくれと頼み込み、ようやく入った国立大学の在学中に司法試験に一発合格する。まるで笈を負うた二宮金次郎みたいな蛍雪の人。だけど、遊ぶときは遊ぶ、豪快な男でもある。
 
 まあ、そうしたタタキあげの苦労人に多い性向だが、正義感が強く反骨精神に溢れ、一方で、清濁併せ呑む人情主義。男を例にとれば、田中角栄、女で言えば、美空ひばりみたいな豪快で情に脆いなタイプと言えばいいだろうか。実はね、私の好きなタイプの人間であるw。だって、東大卒や閨閥をバックに最初から出世が保証されたエリート検事の中にあって、頭脳と根性と度量の大きさを武器にのし上がろうとする検事だもん、情報を得るために多少のギブ&テイクが必要だとする信念を持ち、結果、清・濁の均衡を測る生き方を志向するのは、世の常だと思う。
 でも、そうした生き方を嫌う人も多いのは知っているし、たぶん、そういう人は、この本も読むと途中からどんどん不快に思うだろうな。