社会評論「マングローブ」  西岡研介 (2007.10.8)

マングローブ―テロリストに乗っ取られたJR東日本の真実マングローブ―テロリストに乗っ取られたJR東日本の真実
(2007/06/19)
西岡 研介

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評価★★★

 昨年夏から最近まで「週刊現代」誌上に連載し大反響を呼んだ長期取材記事をまとめ、それに大幅加筆した上で刊行した本。
 著者は今や日本を代表するジャーナリスト、西岡研介噂の真相誌、週刊文春で活躍していたが、メディア界の長年のダブーであったJR東日本労組問題に挑むため、週刊現代に移籍し、念願かなって連載できた渾身のノンフィクション。

 これを聞けば驚く人も多いだろうが、JR東日本っていう世界最大級の鉄道会社は、JR東日本労組という巨大な労働組合に人事権その他経営上の重要な決定権を実質上握られ、その労組はなんと信じ難いことに「革マル」という過激派組織に牛耳られているという。それを裏付ける事件は多々ある。例えば、記憶している方もいるかと思うが、昔96年頃、週刊文春が同じような批判記事を連載したところ、JR東日本からクレームが入り、中吊り広告の拒否はもちろん、キオスクでの販売拒否まで受けた。結果、週刊文春謝罪記事を出し、完全敗北している。 
 
 その労組をたなごころの上に操るのは、松崎明。1960年代労働運動はなやかしき頃、会社の一機関士として国鉄に入社した松崎は、入社数年で革マルメンバーになり、抜群の行動力とカリスマ性をもって一気に革マル最高幹部(本人は後に転向を表明)、さらに国鉄労組でも首脳にのし上がる。いつのまにか、いわば『松崎革マルJR東日本労組』となり、JR東日本の経営にも強い影響力を駆使できるようになったわけだ。今では、JR東日本に潜む革マルは、自らのコードネームに、熱帯雨林に生え繁る「マングローブ」という名をつけ、会社に根を張り、隅々に浸透しているという。
 もちろん、松崎も高齢となり、影響力も弱まっていると思うが、いまだ多くの社員が組合によるいじめで退職・閑職に追い込まれている。読んでいくと分かるが、そのいじめたるや尋常ではない。

 ただ、私はそれでも半信半疑である。だって、私の大学時代は既に学生運動は活力を失い、セクトがいたといっても、学食前にトロ文字で書かれた立て看板を見つける程度。会社近くにある明治大学でもそうした看板をなく、お茶の水駅前のアジもここ7年ぐらい見かけてない。僅かばかりの残党が、たまたまJR東日本に集中したのかもしれない。

 いずれにしても、読後感じるのは、著者のほとばしるような強い正義感、疲れを知らない行動力、高範囲で緻密な取材力、そして、図太さというか胆力。ジャーナリストとしての高い適性を感じる。
 ただ、実は、そうした強い正義感は、時に傲岸さを招いて取材相手を傷つけてしまうこともある。実際、彼は以前、福岡の「殺人教師」事件の際、取材不足が原因で誤った正義を振りかざし、築き上げた名声を大きく傷つけることになった。メディアが「第四の権力」であることは常に自戒すべきなのだ。
 とはいえ、そうした思い上がりは、強い正義感や自信と表裏一体でもある。「自分はその正義感をもって世の悪徳を糾す使命がある」と考えるぐらいに図太くなければ、こうした力作が書けようもないことは、ほとんどのマスコミ関係者が認めるところであろう。