映画「ロシアン・ドールズ」  (2006.7.30)

ロシアン・ドールズ スパニッシュ・アパートメント2ロシアン・ドールズ スパニッシュ・アパートメント2
(2006/11/24)
ロマン・デュリス

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評価★★★★★

「スパニッシュアパートメント」の続編。「スパニッシュアパートメント」は、経済学を学ぶためにバルセロナにやってきた、25才のグザヴィエ(ロマンデュリス)が、国籍も性格もバラバラな若者たちと一つのアパートで共同生活を送る物語だったが、今回は、その5年後、どういう30才になったのかに焦点が当てられる。30代前半の若者に共通した心理を等身大に描いた物語なのだが、この監督(セドリック・クラビッシュ)、それが本当にうまい。
 
 前作「スパニッシュアパートメント」では、EU統合後、各国間の情報や人間の往来量は飛躍的に増えたけど、半面、秩序を失い、誰もが先を読めない混乱に社会が陥ったことを、共同生活の様子を通して、軽快に描いた。そして主人公グザヴィエは、混乱を感じつつもそれを前向きに捉え、小説家を目指して、大きく羽ばたこうと決意する。
 
 翻って今回の映画、グザヴィエは小説家になる夢を持ちつつも、生活することが第一で、仕事はフリーライターとして、25才の時に抱いた夢には程遠い雑文書きで糊口を凌いでいる。ただ夢は捨てきれず、平凡な生活を受け入れる大人になりきれない。では、「自らが凡庸な一個人に過ぎないことをポジティブに受け入れることが大人になること」なのだろうか。だとすれば、30才は、その分水嶺的な年なのだろう。まあ、わたくし、35才になる今でも、相変わらず深き悩みと対峙してます(汗)。

 恋愛も同じで、グザヴィエは30才になり、もうそろそろ一人の相手と安定した生活をすべきなのだろうが、いぜん彷徨い続けている。ボーダーレスで展開の早い時代になって出会いの数は飛躍的に上昇し、今でも比較的簡単に相手に出会うことができる。逆に、出会いが多くなったゆえに「自分にとって特別な、理想的な女性」を探し続けるハメになった。完璧な相手などほぼ皆無なことぐらい分かっているのに、「彼女は素敵だが、もっと他にいるかも知れない」と彷徨ってしまう。結果、誰も選択できない。昨今、30代の独身男女が増えているのは、日本だけではないのだと、しみじみ考えさせてくれる、そんな映画だった。

 ちなみに、恋愛においては、「あの人の何々が素敵だけど、何々は嫌いだ」などと、相対比較してはダメんだなあと、今更ながら思った。相対視ではなくて、絶対視。例えば、相手のどこが好きと問われて、「全部好き」と、一見いい加減な回答にこそ、実は真理があるのかも知れない。なんか宗教みたいだな。