小説「あなたに不利な証拠として」 ローリー・リン・ドラモンド (2006.6.1)

あなたに不利な証拠として (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)あなたに不利な証拠として (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)
(2006/02)
ローリー・リン ドラモンド

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評価★★★★

文芸評論家の池上冬樹が絶賛し、たまたま観たTV番組の書評コーナーでも激賞されていた。その通り、「心を振るわせる」(池上氏)ほどに哀しくて、一気に読めてしまった。
 
 5つの短編で構成されたオムニバスで、それぞれ個々に悩みや事情を抱えた女性警察官が主人公。著者は元刑事、物語を構築する背景・心理描写は臨場感に溢れ、ときにはグロテスクさ(死体とか、暴行シーンとか)も感じるほど、リアリズムが徹底している。警察小説ではあるけど、池上氏が書評の中に記した藤沢周平のハードボイルド小説の定義をそのまま引用すれば、「世界から詩を汲み取る心情と深い人間洞察、それと主人公の心的構造が釣り合っ」たハードボイルド小説にもなっている。

 暴行で顔を砕かれ、膣にはテニスラケットが入った被害者の亡骸を処理するような仕事でも、警察は己を律して立ち向かわなければならない。それは仕事だけど、彼にとっては何度経験しようが、逡巡や恐怖がついてくる。
  
 ところで、オレが思うアメリカの警察って、ワイドショーや映画に出てくるような黒人差別の白人警察官とかのイメージが強く、たぶん日本の警官以上に、悪い印象を持っていたかも。確かに、銃社会アメリカでは、発砲や死体に慣れっこになる部分がないことはないだろう。とはいえ、当の警察官からしたらどうだろう。警官が正当防衛で発砲したとはいえ、容疑者を殺したら、その傷はおそらく一生背負い続けるし、凄惨な死亡事件現場に立ち会った結果、職業放棄することもある。被害者に思い入れしすぎて的確な判断を迷わせることもある。そう、警察のみなさんこそ、本書は必読ですよ。