日の名残り カズオ・イシグロ(2005.8.30)

日の名残り (ハヤカワepi文庫)日の名残り (ハヤカワepi文庫)
(2001/05)
カズオ イシグロ

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評価★★★★★

日本で生まれた後、幼少時に渡英し、日本とイギリス両国の文化で育った著者が、大戦頃の時代に名門貴族の下に従事した執事の回想をつづった小説。
 
 敬慕する雇い主は、大英帝国の歴史的舞台でそのフィクサー的役割を果たすことのできる大人物で、主人公の執事は、歴史の中心にいる自分を誇りに感じ、絶えず、執事としての品格を求め、自らを律し続ける。
ただ、仕事への情熱が強すぎたために、自分を好きになってくれた女中頭の気持ちにも鈍感で気づかず、雇い主が対独政策で失策し、零落していくことからも救ってやれなかった。仕事に情熱を燃やした大人の男が晩年を迎え、新しい雇い主にもらった短期休暇旅行で、自己の人生を振り返り、自分は正しかったのかどうか、逡巡する。
 英国の執事に関する物語といえば、P・G・ウッドハウスジーブズものが名高いが、如才ない執事と人のいい主人のユーモラスな喜劇的作風とは違い、これは、「オレの人生、こんなになったけど、正しかったのかな...」的な大人の男の哀愁たっぷり。こと最後はこっちも哀しくて泣けそうになった。土屋政雄の訳がとってもスムーズで、一気に読めた。